特殊状況下における取締役会・株主総会の実務

今朝(2月27日)の日経電子版(Financial Time2月27日付け記事)に、昨日(2月26日)のアップル社の年次株主総会の開催状況が報じられていました。驚いたことに、消費者保護団体(株主)による株主提案(表現の自由の尊重と、アップル社と中国政府との人権抑制に向けた対応の開示要請)に4割もの賛成票が集まったそうです(ロイター記事はこちら。これまでの2年間は10%台の賛成票だったそうです)。

(写真AC:編集部)

こういった記事に触れますと、「機関投資家は、いよいよESG投資だけでなく、ESG重視の議決権行使も本格化したのか?」といった感想を持つかもしれません。ただ、日本の株主総会でも同様の事態が起こるかといえば、日本と米国では「会社の意思決定にどこまで株主総会の権限が及ぶか」という点において大きな違いがあることに留意が必要です。米国の株主総会では上記消費者保護団体(株主)による「勧告的決議」を求める株主提案も普通に取り上げられます。

では日本の上場会社の株主総会ではどうでしょうか?「御社の海外子会社で発生している児童労働を止めろ」「環境破壊を助長する部品納入は禁止せよ」といった「ESG関連の勧告的決議」を求める株主提案にどう対応すればよいでしょうか?実際、「事前警告型買収防衛策は廃止せよ」といった株主提案の是非が問われた事例も(昨年ですが)ありましたね。

このように、有事における取締役会、株主総会の実務対応に役立つ参考書が3月5日に出版されるようです。

著者の方々から献本いただきましたので、さっそく拝読させていただきました(どうもありがとうございます!)。

「特殊状況下」という表現は、私なりに言い換えれば「有事」というもので、サブタイトルのとおり、本書の構成は①アクティビストファンドの登場、②TOBによる買収提案、MBO等による事業再編、③お家騒動(社内における支配権争い)、④企業不祥事発生時の取締役会運営や総会対応に分かれています。さきほどの「勧告的決議」を求める株主提案への対応なども上記①で解説されています。

2020年3月発売ということで、昨年のヨロズ事件判決(地裁・高裁判断)やアドバネクス事件判決、ユニゾ事例等が実務に及ぼす影響にも触れられています。またブルドックソース最高裁決定後の「買収防衛策に残された課題」なども、どっかから引用してきた理屈ではなく、本書執筆者の意見として書かれています。

総会検査役が入った株主総会の投票実務の最新事例なども参考になります(そういえば、本日のレオパレス総会もマークシート方式だったようですね)。巻末資料も、2017年以降の「アクティビストによる株主提案一覧」など、参考になりそうなものが豊富です。実に読んでいて楽しい。

ただ、取締役会や株主総会の有事を前提とした実務書というのは「宿命」として、陳腐化が早いのが難点です。そこで解説されている法理論が的を得たものであったとしても、取り上げられている事例が古くなったり、政府の実務指針や取引所の規則がコロコロと変わったりすると、訴求力が失なわれる懸念がありますね(現に、最近の東芝機械の事例では「有事発動型買収防衛策」策定の是非を問う株主総会などが新しい論点として浮上しています)。

近時の企業法務を取り巻く環境からすると、取り上げられたテーマはとても斬新だと思いますので、定期的に第2版、第3版を出すことができれば良いですね。

私も企業の有事対応に関わる業務が多いので、今後はぜひとも参考にさせていただきます。なお、私が当事者として関わった第三者委員会(株式交換比率の合理性判断)の職務執行の適法性(価格の相当性)が裁判で争われていますが、地裁・高裁の決定要旨を読む限り、やはり第三者委員会独自の法務アドバイザーを設置することも有用ではないかな・・・と感じております。

「冷静な状況判断」や「将来起こりうることへの想像力」も、有事を乗り切る力量として大事だなぁと、つくづく思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。