テレビ朝日系全国ネット「羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜・前8時)のレギュラーコメンテーター玉川徹氏がかねて番組で散々PCR検査をより多くの人に受けられるよう態勢を整えるべしと主張していたにも関わらず、番組でコロッと態度を変えたことがTwitter上で話題となった。
玉川徹氏が路線変更「医療崩壊を起こさないことが一番大事。PCR検査をした方がいいとかしない方がいいとか終わった話」(Togetter)
孫正義氏のPCR検査100万人態勢への寄付表明から撤回に至る短時間での成り行きや、その際SNS等で数多く寄せられた医療崩壊や検査精度に対する懸念を受けてのものだろう。
玉川氏、まさかの自分が散々糾弾してきた詭弁&開き直りの厚顔
そんなネットニュースを見て何事かと、後述するよう嫌気がさしてしばらく見ていなかった「羽鳥慎一モーニングショー」に今朝(3月17日火曜日)久しぶりにチャンネルをあわせてみると、玉川氏はそんなネット上の声を意識してか、
「私が『PCR検査した方がいいとかしない方がいいとか終わった話』と言ったのは、検査数を増やす方針は行政も認めたのだから決着していてその上医療崩壊を招かないような陽性者に対する自宅療養の体制を整えるべきという意味」
とかなんとかそのような趣旨の発言をしており、ダメな国会答弁のような厚顔なすり替え話法。確かPCR検査推進を絶賛主張していた際は、「なんで国民全員一刻も早くPCR検査を受けられる体制を整備できないのか」と医療崩壊も医療現場の負担もまったく眼中にない勢いで、まくし立てていたように記憶している。
テレビ出演者としての反射神経で言えばライバル番組「スッキリ」MC加藤浩次氏の「『韓国ではこんなにPCR検査やってんだよって。日本ではなんでできないんだよ』って僕もこの番組で言いました。たぶん僕の考えも間違ってて、やればいいってもんじゃないっていうのがわかってきた」という分かりやすい反省の弁がよほど確かにスッキリくる。
加藤浩次、PCR検査で自戒「やればいいってもんじゃない」(サンスポ)
局員にしてレギュラーコメンテーター
私自身、この時間帯の各局ワイドショーの中で「羽鳥慎一モーニングショー」が一番好きで良く観ていた。長嶋一茂、石原良純、山口真由などサラブレッド、エリートのようで結構人間らしい屈託を抱えたタイプのコメンテーター陣が面白いことと、何と言ってもMCの羽鳥慎一氏が達者だ。予定調和型ではないコメンテーター陣の”ぶっこんでくる”発言をやんわり番組の空気感を壊さずにさばく抜群の安定感はさすがプロだ。
そんな番組に毎日レギュラーコメンテーターとして出演している玉川氏も、京都大学大学院農学研究科卒業でテレビ朝日に入社、現場で経験を積んだバリバリの放送マンだそうだから立派なキャリア。
ただし、放送内でもしばしば自己申告しているように、役職もない「平社員」で非エリート街道まっしぐらとのこと。なんでも自分の信念が許さなければ特落ちも辞さず貫いてきたとのこと。とは言え、何だかんだ手厚い民放キー局でもあるので「平社員」というのは話半分だが、現役テレビ局員にして個人としての見解を毎日発言する立場はかなりユニークだ。
玉川氏に対しては「眞子様・小室圭さん」報道で、むしろシンパシーを感じていたのだが
実は玉川徹氏に対して強いシンパシーを感じたことが私自身一度ある。「眞子様・小室圭さん」に対するバッシング全盛の真っただ中で、眞子様の立場であるからこそ日本国憲法の精神に基づき「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」する判断をして欲しいと本アゴラに私の記事が掲載された直後に、玉川氏が番組で同様の発言をしたのである。
お、もしや私の記事読んでくれた?とも思ったが、定かではない。でも当時同番組を含めてお二人の婚約に対する疑問の声真っ盛りであり、ひるまず私からすれば正論の極みを主張した氏に対しては共闘する戦友のような信頼を感じたものである。
参照拙稿「それでも、眞子様のご結婚成就を願うたった一つの理由」
ということで、かねて玉川徹氏に対する心情は極めて良かった私だが、新型コロナウイルス流行以来の玉川氏の発言には最初から共感しかねた。初期はダイアモンドプリンセスやホテル三日月での隔離施策に対するコメントが中心であったように記憶するが、氏の論法は「厚生労働省の役人の対応が悪い、政権が悪い」との一点張りであった。
何かあれば誰かの技術的な落ち度と考えなければ収まらない科学信仰の時代
この何かあれば「政府が悪い、役人が悪い」の論法は、居酒屋談義でも定番の類ではある。
特に科学万能信仰が強い現代社会では、何か人の生き死に関わる出来事があると、その原因を本来であれば対策可能であったはずの技術的な落ち度と捉える傾向が強く、もっと言えばその原因を誰かの怠慢とかミスにしなければ気が済まない。
(この点話せば長くなるので私のサイト記事に詳しいのでよろしければお読みください。【第21回】衝撃の書「ホモデウスを読む」– 新型コロナウイルスは誰かのせい?)
それにしても日頃玉川氏共感者だった私の目から見ても、危機における根拠のない視聴者感情への迎合煽りが醜悪に感じたし、もちろんPCR検査、PCR検査とこだわる姿勢もあまりにも非科学的に感じられ、しばらく「羽鳥慎一モーニングショー」を見ないでいたらこの騒ぎだったということだ。
毎朝の出演で勉強・取材の時間がないことが原因か
一点感じるのは、玉川氏の不勉強である。
最近マイクロソフトの取締役を退いたビルゲイツは、持ち前の知力、国家予算にも匹敵する私財とビジネスで培った実行力を人類全体にとって危機的でありながら、国家や国際機関が扱いきれない問題にフォーカスして自らのビル&メリンダ・ゲイツ財団を通じて取り組んでいるが、地球温暖化などと並んで従来より注力しているのが、ウイルス対策であることは有名だ。
その彼の取り組みなども少し調べれば、単純に医学的なワクチン開発だけではまったくことは済まず、むしろ医療体制や行政、法政等の整備があって初めて機能するという論点が外部にもオープンに示されている。特に、ウイルス対策と医療崩壊対策はセットのような最重要論点であることはいわば常識なのだ。
もちろんジャーナリストが不勉強と言われるのは、一番の屈辱だとは思うが、毎朝のテレビ出演は、尋常な負荷ではない。氏としてもきっとかつては得意としていただろう現場での綿密な取材に基づく確かな考察も難しい状況なのではないかと察する他ない。
出演者一同、誰もツッコまない不気味
もう一点、気になるのは、今朝の番組にも青木理氏(この人のキャスティングなどもこの番組らしさとは言えるが)など論客が出演しながら、誰も玉川氏の詭弁に対してツッコまないオール与党進行ですすめられていた不気味さだ。
いい歳して平社員という奇妙な強弁で局員である立場にもかかわらず一コメンテーターというウルトラCを通してきた玉川氏だが、所詮はテレビ朝日の身内。氏自身にキャスティング権があろうがなかろうが出演者として局にキャスティングされる立場のフリーランス各氏は忖度してしまうものだとつくづく感じた。
情報の非対称性を背景に大マスメディアの金看板を背負った“ジャーナリスト”のご宣託が無条件にありがたがられる時代は完全に終わった。一方PCR検査の件では、大富豪の考えさえも速攻で説得力をもって軌道修正させる集合知のパワーを目の当たりにした。
もし玉川徹氏が所属するテレビ朝日という会社がジャーナリストとしての氏を守る気持ちがあるならば、せめて毎日の出演をやめさせ、氏に勉強、取材する時間を与えてあげるべきである。
希望はしないが悪い予感としては、今回の玉川氏らしからぬ詭弁のように、他者からの批判に対しては意固地になって反発することをもってジャーナリスト魂とするオールドマスコミイズムを発揮するようであれば、間違いなくまとめて時代から見放されるだろう。