日本では知られていない「実子誘拐」
では、外交問題にまでなっている「実子誘拐」とは何なのか。
ある日、家に帰ってくると子どもが突然いなくなっている。そして、その子どもを連れ去ったのは、もう一方の親である。欧米などの先進国の大半では、これは誘拐罪に該当する重罪である。
しかし日本においては、実子誘拐は罪に問われず日常的に行われている。突然愛するわが子を奪われ、子どもに会えなくなり養育費だけを支払い続けることで、精神的、経済的に追い込まれ自殺する親も後を絶たない。
実子連れ去り被害の男性が訴えた注目の裁判
そのような実子誘拐に関連して、注目すべき民事訴訟が始まろうとしている。
この訴訟は、実子を離婚した元妻に連れ去られた男性Aさん(仮名)が、裁判所で別に争った自身の離婚訴訟に関連し「妻に暴力をふるうDV夫に仕立て上げられ名誉を傷つけられた」として39人を相手に民事訴訟を起こした。訴状ではこの行為を「集団リンチ」と非難している。
被告人が誰なのかは、26日発売の月刊『Hanada』5月号で主だった面々を実名で書いているが、39人の中には、「人権派」弁護士の大物をはじめとして、保守系メディアから「リベラル系論客」としてよく批判される著名人も多数含まれている。
たとえば、弁護士では、元千葉県弁護士会会長も歴任したK氏(女性)、A氏の離婚訴訟の元担当裁判官で、A氏敗訴の判決を下し、退官後はA氏の妻の代理人の弁護士事務所に所属しているY氏(男性)がいる。
社会起業家では、厚生労働省の「イクメン(育 MEN)プロジェクト推進委員会」委員をつとめるK氏(男性)や、シングルマザーを支援し、養育費の取立て運動を行っているC氏(女性)などがメディアでしばしば登場する人も。ほかにも安倍政権の憲法解釈などをマスコミでたびたび批判し、民放報道番組のコメンテーターを務めたこともある若手の憲法学者など、錚々たる者が並ぶ。
男性は「人権派」の虎の尾を踏んだ?
なぜ、原告のA氏は39人もの者から「集団リンチ」を受けたと主張しているのか。それは「実子誘拐」をあたかもビジネスのように生業とする弁護士らの虎の尾を踏んだからだと見ているからのようだ。
この問題を取材して弁護士の世界の「常識」だとわかったが、弁護士が一方の親に子どもを誘拐するようそそのかし裁判を提起させれば、裁判官が「継続性の原則」(別居した夫婦の間の子どもが、一定期間一方の親と同居し、安定した生活を送っている場合は、その現状維持が子どもの利益となるという考え方)に基づき親権を与える段取りとなっている。
勝訴した弁護士は、親権を奪われた親から奪い取った子どもの養育費の一部を「成功報酬」として懐に入れる。取材を進めると、弁護士側勝訴の判決を下した裁判官の中には、そのお礼として退官後に弁護士事務所に天下りすることもあるという信じがたい話もあった。
なお、今回の原告、A氏の離婚訴訟の1審判決は「継続性の原則」を採用しない画期的なものであった。この判決が最高裁で確定し先例となれば、子どもたちが両親と離婚後も普通に会える社会に変わることが予想された。それは子どもの利益に資するものである。
しかし、「実子誘拐ビジネス」に関わる人たちにとって、実子誘拐をした親が裁判で親権をとれないことになれば、ビジネスは壊滅的ダメージを受け多大な不利益を被る。それは断じて許すわけにはいかないわけだ。
国連子どもの権利委が対日勧告:新たな流れ
これはあくまでA氏側の主張だが、彼らが共謀し、A氏を二審及び最高裁で敗訴させるため、また、一審判決が不当なものであるとの印象操作をするため、A氏をDV夫に仕立て上げ社会的に抹殺しようとした、と訴状で提起している。
もしかしたら、A氏の新たな訴訟が始まれば、被告の属性もあって「保守VSリベラル」的なイデオロギー論争になってしまいかねないが、本質的な問題から目を背けてはなるまい。
冒頭で「外交問題」と書いたが、実子の連れ去りは「親権」と密接に絡んでいる。国連子どもの権利委員会は昨年2月、日本政府に対し、共同親権を認めるために、離婚後の親子関係に関する法律を改正するよう勧告した。
今後の動きを占う上で、いま何が起きているか。詳細については月刊『Hanada』5月号をご覧いただきたい。
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牧野 のぞみ ジャーナリスト