新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京オリンピック・パラリンピックの日程見直しは時間の問題になってきた。世界各地で予選や練習どころでなくなり、各国の五輪委員会や選手たちから異論が噴出。さらに放映権ビジネスに影響力の大きいアメリカの陸連と水連がIOCに対し、文書で正式に延期を求める要請をしたことで決定打になった。
案の定、きょうの未明になって、IOCが臨時理事会で延期を含めた具体的な検討をはじめ、1か月以内に結論を出すことを決めたというニュースが入ってきた。
さて、4月中にも大会が延期となれば、オリパラを前提として進んでいた日本の政治日程が抜本的に見直されることになるのは言うまでもない。
「大前提」としてコロナの感染拡大が夏場になって収束しているかによるが、安倍政権幹部への強い取材ルートを持つ長谷川幸洋氏が夕刊フジで、加藤清隆氏がツイッターで、相次いで、7月の解散総選挙説を唱えるようになったのは注目したい。
なお、加藤氏は都知事選(6月18日告示、7月5日投開票)とのダブル選挙を唱えており、私も同じ見立てだ(谷垣禎一氏の都知事選擁立論については同意してないが)。
コロナ「鎮圧」なら安倍首相主導の政局に
感染拡大を巡る悲観論やパニックと一線を画して、池田信夫・アゴラ研究所所長が主張してきたとおり、春先で日本国内のコロナが終息するようであれば、安倍政権は「コロナ鎮圧」に成功した名声を手に政局の主導権を握る環境が整う。
それは野党や朝日新聞などは、コロナ対策で政権を追及する材料を失うことでもある。そうすると今度は桜を見る会を再燃させ、さらに週刊文春が、自殺した財務省職員の遺書報道で火をつけた問題などスキャンダル追及に血道をあげることになるだろうが、これまでも繰り返されたように、安倍首相の人柄に対する信頼度を下げることはあっても、政権交代の受け皿を作りきれていない中では、野党が支持率で自民党に迫るような状況は考えにくい。
そしてコロナの感染が終息したとしても、経済状態は凄惨だ。内需を復興させるだけならまだしも、世界各地の経済がコロナで崩壊状態が続けば、対外貿易も深刻になる。経済の回復基調が、コロナの治療法の確立以後であるとすれば、新薬ができない今年中は厳しい。
景気後退の猛烈な流れを押し留めるべく、目玉となる大型の経済対策を公約に打ち出しやすい。さすがに消費税率の引き下げはないと思うが、万一そんなことになればなったで、野党はまたも争点を打ち消されてしまう。
むしろ安倍首相は弱小野党など眼中になく、石破茂氏の待望論にこそ最大の警戒をしているのは間違いあるまい。
解散と総選挙での公認で党内を引き締め、来年9月の総裁選に向けて求心力を再び加速させる。オリパラが来年7〜8月に1年延期なら、勢いをつけて4選に突入。オリパラが2年後に延期なら4選のハードルは少し上がるも突破、大会までがんばって花道にして勇退。
後者のシナリオなら、党則により任期途中の辞任により党員投票をする必要はない。石破氏が不利な国会議員票のみで岸田文雄氏に禅譲することができる。任期途中に岸田氏にバトンタッチというのが順当なシナリオだろうか。アメリカ大統領選でトランプ氏が再選すれば、なおさら安倍首相の続投、求心力維持の流れとなる。
安倍政権さらなる長期化は好ましくないが…
ただ念のため、誤解をされても困るが筆者自身は、安倍政権は賞味期限切れだとは思っていて、そうしたシナリオは必ずしも好ましいとは思っていない。昨秋の森ゆうこ氏の問題は、霞が関の疲弊・停滞ぶりがクローズアップ。政府・自民党が原英史氏を見捨てたことで規制改革へのやる気なさが明白となり、私も「さすがに交代時期では」と思っている。
もし4選するにしても、大学入試改革の頓挫に見るように、憲法改正実現の歴史的名声を得たいがため、目先の政局を乗り切りたいがために、さまざまな改革を投げ出し「無難にやり過ごす」というのでは話にならない。ポスト・コロナの世界で社会・経済の変革スピードが加速していく中で日本は今度こそ二等国への転落が決定的だ。
ダブル戦となる都知事選はどうなる?
さて、都知事選だが、国政主体で政局が動き出れば、ほとんどその波に呑まれてしまうだろう。
すでに公明党が小池支持を打ち出し、都知事選自体は小池氏再選の消化試合が濃厚だったが、もともと、どんでん返しの可能性がわずかにあるとすれば、小池氏と自民党都連擁立候補者が熾烈な保守分裂選挙を戦い、野党連合による山本太郎氏が漁夫の利をさらうシナリオだった。
しかし、安倍首相が衆院選を都知事選にぶつけることで、山本氏の戦いの舞台は自動的に衆院選になる。衆院選後の野党再編をにらみ、そこでの主導権を取りにいくにはこのタイミングで国政に復帰するのが順当だし、そもそもすでに全国各地で公認候補予定者を発表済みだ。大将自ら出陣しないのはあり得まい。
一方、自民党都連が独自候補を擁立する場合だが、衆院選となってしまえば、都連所属の地方議員は地元にべたばりとなってしまい、これがプラスにもマイナスにもなりうる。
マイナスのシナリオは、「小池憎し」のコアの支持層向けに戦った実績作りのための候補者が出ただけで、地方議員たちも衆院選メインでしか動かないというものだ。逆に著名人などの魅力的な候補者を出して盛り上がり、健闘することも考えられないではないが、衆院選とのダブルだった2012年選挙と同じく都政ローカルの論戦は盛り上がりづらいだろう。
いずれにせよ、都政のことを重要視していない安倍首相からすれば、野党系知事が誕生しない限りは誰が勝ってもいいことに変わりはない。
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というわけで、オリパラの延期が現実味となってきた今週以後、永田町はコロナの感染拡大の成り行きをにらみながら、一足先に通常の政局モードになっていくのではないか。なお、東京ローカルの政局ではすでに水面下で「前哨戦」を思わせる興味深い動きがあり、今週中にも明らかになるだろうから、その際、また解説してみたい。
【訂正13:20】総裁選前後の日程で記述を誤りましたので訂正しました。