「コロナ起源は中国とは限らない」 無視できぬ中国専門家の発言

山田 禎介

東京五輪開催紛糾ですっかり埋もれてしまった中国新型コロナウイルス起源問題だが、危機を抑え込んだとする中国医療チームのトップで、疫学、感染症での権威、鍾南山医師が、「今回の新型コロナウイルスの起源は中国とは限らない」と会見で語っていることは、いまだに気になる。

鍾南山氏(新華社サイトより:編集部)

この発言に耳を貸す動きは、当然だが国際社会にはみられない。国際社会ではグローバルな新型コロナウイルス蔓延状況を、中国当局が武漢での発生初期を隠ぺいしたことこそ、広がりの原因との見方でまとまっている。仮に外国からとすれば、「新型コロナ感染発生は武漢だけでなく、中国各地の同時多発であったはず」、というのが最も説得力のある反論だろう。

しかし鍾南山医師は、2002年から2003年にかけて、中国広東省がら蔓延した重症急性呼吸器症候群(SARS)感染での中国当局の脅威の過小見積もりや、隠蔽の動きに異を唱え、世界的に注目された医師。疫学、呼吸器学、臨床医学でグローバルな経験を持つ人物だ。

それだけに鍾南山医師の「起源は中国とは限らない」発言は、政治的配慮からではない、医学に携わる者としての良心から、とも言えなくもない。あるいは、「中国起源であっても、中国人からではない」と言いたいのか。というのも現代の湖北省武漢は、かの日の唐の都、長安のような多民族社会に近い。人口1000万を超える中国有数の工業都市で、一例をあげれば約200社もの日本企業も進出している。また文教都市であり、北海道の面積より広い。

世界保健機関(WHO)と中国専門家チームは今回の新型コロナウイルスは動物が起源で、コウモリから別の動物経由で人間に感染したとしている。その感染は当初、武漢市の海鮮市場とされていたが、いまはそれは否定的となった。中国政府系研究機関チームは2月下旬の論文で、昨年11月下旬から12月初旬に、海鮮市場以外で人から人への感染が始まり、その後この市場に流入したと指摘する。しかし、どこで感染が始まったかは不明のままだ。

鍾南山医師の「起源は中国とは限らない」発言の根底にあるのは、外国人を含む膨大な人の流れを指しているのか。交通の要衝である武漢を含む、現状中国の大きな人的交流は、すでに「一帯一路」政策の準備段階から進んでいることを忘れてはならない。

その大きな一端に中国の留学生大量受け入れがある。中国は2014年にフランスを抜き、米国と英国に次ぐ世界3位の留学生受入国となっている。2017年にはすでにアジア最大の留学生受入国となっている。48万9200人の外国人留学生が高等教育機関に在籍している。

中国への留学生の国別は1位韓国、2位タイ、3位パキスタン、4位米国、5位インド、6位ロシア、7位日本、8位インドネシア、9位カザフスタン、10位ラオスで、「一帯一路」沿線国からが目立ち、合計31万7200人ともなっている。またアフリカ大陸への影響力を拡大しようとする中国の意欲により、アフリカ大陸全体でみると、留学生の数では中国全体では2番目に多い。 2018年にはアフリカからの留学生の数は8万人を超えている。武漢市でも近年アフリカからの留学生が急増し、5000人にもなったという。

新型コロナウイルスがグローバルな問題となる前の昨年11月27日の日経新聞の夕刊に偶然、「外交拠点の数 中国が首位に」というニューヨーク発特派員電が掲載された。この記事は世界各国の外交力を測るオーストラリアのシンクタンクの調査が元で、いまや米国より中国の在外公館(大使館、公使館)のほうが多いという内容。とりわけアフリカなどで拠点を増やしていると指摘する。中国が多民族交流社会をめざしてることを具体的に示すものだ。

何よりも新型コロナとは関係なく書かれていることがいまでは新鮮な印象に映る。これも鍾南山医師の「新型コロナ起源は中国とは限らない」を、補足する材料とならないか。