新型コロナで注目「インフォデミック」:情報の感染対策に遅れるな

中田 智之

新型コロナウイルスに対する取り組みの中で、インフォデミックが注目されている。

インフォデミックはWHOの2020年2月2日のレポートで定義され、「情報過多な社会の中で様々な情報が混在し、正しい情報にアクセスすることが困難になること」とされている。

Jason Howie/flickr:編集部

いまやWHOをはじめとする世界の保健機関は、新型コロナウイルス自体との戦いだけではなく、市中に急速に蔓延する誤情報・代替医療とも戦っている

参考:Inoculating against the ‘infodemic’ in Africa – WHO

参考:How to fight an infodemic. – Lancet

(ぜひChromeの自動翻訳機能で原文を読んでみてください)

1.インフォデミックの国内事例

国内の主な事例としてはマスクやトイレットペーパーの不足だ。このうち一部は転売目的に恣意的に流布された言説である可能性も指摘されている。

また大規模イベントなどでの感染対策として行われる空間除菌は、感染予防対策として意味がないことが既に分かっている。

参考:二酸化塩素による除菌をうたった商品:部屋等で使う据置タイプについて(国民生活センター)

また自粛要請に対する過剰な反応によって、一時学校の校庭が使用不可能になったことは記憶に新しい。

飲食店の客数減少、小規模を含めたあらゆるイベントの中止などによる経済損失なども、インフォデミックによる被害とされている。

インフォデミックはSNSというインフラにのって、従来よりも早く、遠くに感染拡大する、とWHOは表現し、対抗するにはタイミングが重要であることを強調している。

2.SNSプラットフォームやマスメディアに対するWHOの働きかけ

既にWHOは具体的な行動を開始している。

  1. ソーシャルメディアをスキャンして見つけた噂を修正し、一般からの質問には直接回答する。
  2. SNSプラットフォームに働きかけ、トップページに正しい情報へのリンクを掲示するとともに、公益に反する書込みに対抗するガイドラインの制定を要請する。
  3. 頻繁なラジオインタビューや記者会見などの情報発信を行う。

おそらくそれを受けて、Twitterは下記の通りガイドライン修正を行った。

参考:COVID-19流行期における一連の戦略の経過報告 – Twitter Japan

FacebookやYoutubeでも新型コロナウイルスに関する投稿はファクトチェックの注意喚起が表示され、場合によっては表示順位にペナルティが発生するようになっている。Amazonはガイドラインに抵触する商品を大量に削除した。

3.日本国内のインフォデミック対策は進んでいるか

日本医師会日本感染症学会は自身のHPにおいて情報発信しているものの、SNSやマスメディアにおける存在感に乏しいという印象は否めない。

伝統的に「何かあった時ために、あらかじめポジションペーパーを策定しておく」ことには積極的であっても、それをSNSやマスメディアに乗せて主体的・能動的に発信するという動きは少ないように見える。

WHOの声明で特に印象に残ったのは、「メディアは私たちのパートナーであり、大衆との繋がりだ」という一文だ。

もしもインフォデミックに対抗するのであれば、テレビ局の「お抱え」開業医らではなく、医師会や学会が推薦した専門家らがワイドショーの主役となってオピニオンリーダーの役割を果たさねばならないだろう。

マスメディアに対し放任主義を貫き、大向うでポジションペーパーを作るのではなく、共に公益の担い手として協力体制を整えることが必要なのではないかと考えている。

まとめ

いまや情報は実体経済や健康被害にもつながる、「具体的で明確に実在する脅威」だ。

こういったインフォデミック … 情報感染のコントロールは、ネット社会のあたらしい公衆衛生と考えるべきではないだろうか。

中田 智之 歯学博士・歯周病認定医
ブログやアゴラで発信する執筆系歯医者。正しい医学知識の普及と医療デマの根絶を目指している。地域政党「あたらしい党」党員