都市部の感染者が連日増加し続け、いよいよ政府の緊急事態宣言が発令された。
東京都では医療崩壊が危惧されるなか、小池都知事は東京五輪の選手村を感染者の一時滞在施設として活用する案を明らかにしている。
選手村として利用される予定の「晴海フラッグ」は総敷地面積96,250.26㎡、総計画戸数4,145戸(他に商業店舗)という大規模なマンション群である。五輪終了後は一般の住戸として利用予定で、すでに約900戸ほどが販売済みだ。
東京五輪の延期が決まったことで、晴海フラッグの販売済み住戸の引渡しも延期されることになるが、事態はそう単純ではない。
そもそもこのマンションは、五輪終了後に2年半もの時間をかけリフォームを行ってから引き渡される予定だった。それがさらに最低でも1年は引渡しが先延ばしになるのである。
3年半以上先に引渡しになるマンションを購入するにはかなりの勇気が必要だ。
住宅ローンを利用する場合の金利上昇リスク、購入者の生活環境変化(家族構成、勤務先など)のリスク、そして最も気になるのは不動産価格の下落リスクだろう。
五輪後の不動産価格下落を叫ぶ声はずっと聞こえていたが、新型コロナ感染症の収束が見えない今、五輪とは関係ないところでそれが現実となりそうだ。
国土交通省が3月25日に公表した不動産価格指数(令和元年12月分)は61ヶ月連続で前年同月比で上昇している。不動産価格指数とは不動産価格の動向を指数化したもので、2010年の平均を100として算出しているが、マンションの指数は突出しており今回の発表では149となっている。
このような指標のもと、価格推移に多少の上下があったとしても東京のマンション価格は今後も堅調ではないかと考えられてきたが、その見方も180度変わる可能性がある。
オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック等、これまで日本の不動産は何度か急激な下落を記録したことがあるが、その契機は過去の大きな景気クラッシュとおおよそ一致している。今回の感染症は収束が予測できない以上、実体経済への影響も底知れない。これまで経験した景気クラッシュよりもさらに大きなものになる可能性もある。
バブル崩壊後、景気は一気に悪化したが、地価は緩やかに下落した。国土交通省が公表している過去の地価公示をみると、平成4年の東京圏・住宅地での下落率は前年比-9.1%だった。バブル後の下落率が最も高いのは翌年の平成5年で、下落率は-14.6%となっている。
当時、実際の不動産市場ではこの数字よりもはるかに大きい下落が起こっていたが、地価の変動は数字に反映されるまで時間がかかる。地価は株価の変動と相関関係があるといわれるが、一般的に株価の変動が地価に影響するまでは一定程度の時間を要する。株式はいつでも売買が可能だが、不動産は相対での取引となる為、地価に景気の現状が反映されるのが時間がかかるのである。
結局、下落傾向は平成18年まで続き、その間は「地価は今後も下がる」という認識のもと、買手市場が継続した。
現在、地価動向と相関関係があるといわれる株価は連日激しい上げ下げを繰り返している。
過去の地価下落契機を見れば、今後、株価下落のモメンタムが常態化すれば、地価は下落に転じる可能性がかなり高い。
2022年問題(生産緑地解除)やオリンピック後の急激な需要減少などによるものではなく、未知のウイルスによって不動産価格が下落する可能性が高まるとは誰も予想できなかっただろう。