安倍首相の軸

緊急事態宣言がようやく発令されました。非常に苦労した、というのがこの経緯ではないでしょうか?安倍首相には申し訳ないぐらい厳しい判断を迫ることが続きました。この新型肺炎に関連し、習近平国家主席来日の延期、オリンピックの延期、そして今回の宣言すべてに共通して言えるのは長い前置き、そして「努力している」「慎重に検討している」「事態を注視している」といった引き延ばしをしながら裏で別シナリオを作ってきたという点です。

令和2年4月8日 緊急事態宣言の発出を受けて会見する安倍首相(首相官邸HPから:編集部)

令和2年4月8日 緊急事態宣言の発出を受けて会見する安倍首相(首相官邸HPから:編集部)

なぜ、これほど表と裏の顔がはっきり出てきてしまったのでしょうか?個人的に感じるのは今、この国を動かしているのは誰なのか、ここがブレているように見えるのです。もはや、安倍首相の意思で物事が動いていないような感すらあるのです。では誰がそうしているのでしょうか?

安倍内閣がうまく行っていた時は菅官房長官との蜜月の関係があったと思います。が、首相と菅さんの距離感が少し生じたのは次の首相候補リストが出回り始め、菅さんが意識をし始めた頃だったはずです。実際に菅さんが反安倍派である古賀誠元幹事長に接近するなどの内部の駆け引きに参戦した報道もありました。

一方、安倍首相が一押しする岸田文雄政調会長は新型肺炎に関する30万円の現金給付を取りまとめる役割を担ったのですが、非常に難産であったといわざるを得ません。正直、この方の政治的手腕で果たして首相が務まるのか、個人的には疑問符がついてしまいました。

岸田さんを困らせたのが強面である麻生財務大臣。自分の首相時代の経験をもとに「現金を配っても貯め込むだけ」と言われ、一方の二階幹事長からは「商品券にしろ」と主張され、結果として多くの国民に「何これ?」と言わせた案を提示してしまったということです。

安倍首相はこれらにどう対策をしていたのか、ですが、判断をブレーンに託すことが多くなります。それを支えるのが北村滋国家安全保障局長と今井尚哉首相補佐官であります。ただ、北村さんはそれでも自分の業務範囲の中でのブレーンとしての役割を果たしていると思うのですが、今井さんはどうもそのレベルを超えているように感じます。あの2枚のマスクも今井さんの発案とされます。首相の懐刀と称されていますが、ある役人からは「今井首相」とはっきり言われました。

今井さんと首相の付き合いは第一次安倍政権時代からであり、首相を辞任した後、一緒に高尾山に登りに行った話はその世界では有名であります。付き合いが深いもう一つの理由は岸信介氏が大臣の時、今井さんの親せきが秘書官を務めた関係です。ちなみに今井さんは今井敬元経団連会長の甥でありサラブレッドであります。更に彼は今のポジションが終わったら独立行政法人JOGMECの理事長に内定しているとされます。

さて今井さんの評判は省庁の間ではよくありません。それは氏が経済産業省出身であり、そちらの利益誘導が見えることです。これは今に始まったことではなく過去ずっとであり、他省とのすり合わせがなく唐突に「総理のご意向」と独善的に進め、菅官房長官との調整すらすっ飛ばすことすらあるからでしょう。

私は本来、黒子に徹するべきである「今井補佐官」という名前がこれだけチラつくようになったのは安倍首相本人の弱体化そのものだとみています。政権内部の力関係がバラバラで一体感をなしていないのです。実は最近テレビ画面越しで見る安倍首相の元気がないのが気になっています。前はもっとパワフルで目チカラがありました。

あえてもう一つ言うなら今回の新型肺炎対策で政府としての対応が全て後手に回ったこと、特に北海道知事の緊急事態宣言とそれに伴う一定の評価はリード役を官邸から知事に渡してしまったともいえます。安倍首相は39歳の鈴木直道知事に一本取られたといってよいでしょう。それ以降、大阪、兵庫、そして東京の各知事らがメディアに露出し、かく乱していきました。

正直、今は一種のレームダックのような感じすらあります。良い時だけはうまくいくではなく、危機対応でつまづいてほしくないのです。一度、兜の緒を締めなおす覚悟で臨んでいただきたいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月8日の記事より転載させていただきました。