日本の航空防衛産業は世界の先端という夜郎自大

我が国の航空防衛産業は世界の先端を走っている、ある種のテクノな所なりリズムを信じている人たちが少なからずいます。彼らの頭の中では世界最先端の技術の我が国は次期戦闘機もなんでも実戦的で最高のものができると信じ込んでいます。

ところがこれは妄想に過ぎません。損用な妄想を元に、P-1哨戒機、C-2輸送機、US-2飛行艇、10式戦車、19式自走榴弾砲、高域多目的無線機など失敗作で値段だけは高い駄目兵器を褒め称えます。その欠点すら褒め称えます。まあ、世に言う判官贔屓の類であります。

我が国の航空宇宙産業企業のレベルは率直に申し上げて2流、3流です。それは産業界だけではなく、要求を出す防衛省や自衛隊も同じことです。

実戦を経験したわけでもなく、世界の市場で揉まれたこともなく、組織内の政治だけが御大事です。そして、他国のようなペースで開発もせず、基礎研究もしない。
世界の実態を調査、分析することもしない。

更に申せば、死傷者がでることも想定していない。ファーストエイドキットも極めて貧弱でした。このような人たちが世界最先端の実戦的な装備を開発できると信じているならばそれは世にいう「お花畑」の類です。

三菱航空機が開発中の「MRJ90」(Wikipedia:編集部)

以下は少し前の週刊東洋経済の記事です。

スペースジェット大苦戦、泥沼にはまる次の稼ぎ頭

これまでに投じてきた開発費は8000億円近くに上り、事業化までに1兆円以上かかるのは確実だ。今20年3月期末には過去に計上していたMSJ関連資産1300億円をすべて減損処理し、今期の開発費1400億円と合わせた関連損失は2700億円に膨らむ。好調なガスタービン事業などで稼いだ全社の事業利益はほとんど吹き飛ぶ。

なぜこれほどまでに手間取るのか。航空機の設計・開発には特殊な技術や経験が必要だったにもかかわらず、それが不足していたことが背景にある。

16年に航空機開発に実績のあるカナダ・ボンバルディアからMSJを開発する三菱航空機に移った、開発責任者のアレックス・ベラミー氏は「計画は不透明で、日々の働き方も不適切だった」と移籍当時を振り返る。

それ以降、大量の外国人技術者を導入し、組織の立て直しを急いだ。17年の5度目の延期の際には電気配線の設計をやり直さなければいけないことが判明。昨年までに900カ所以上の設計変更を行った。

航空機産業の関係者は「航空機開発の経験豊富な米ボーイングでさえ、新型機には数年の遅延はつきもの。ましてや三菱重工がすんなり造れるはずがなかった」とあきれ顔だ。

まあMRJ開発際してぼくが予言した通り、それ以上に悪い状態になっています。ご案内のようにぼくがすっぱ抜いた、MRJパリ航空ショーデビューでは、大使公邸でレセプションを行ったわけですが、世界の投資家も、ベンダーも、ジャーナリスト、エアラインも殆ど呼ばずに、日本の航空産業の関係者で飲み食いしていました。

こんな意識をもっていては、開発は暗礁に乗り上げると何度も警告してきました。三菱重工の意識が変わるのには多くの年月と多大な開発費を無駄にして後です。これは極めて高い授業料となりました。

三菱重工の関係者は我が国の航空防衛産業の雄である三菱重工が本気をだせば、売れる旅客機なんぞあっという間に開発できると思っていたのでしょう。

ところが、実際はご存知の通りです。市場で売れる製品を作るのがいかに大変か、それを知らなかったわけです。

そのような会社が作った自衛隊向けの装備が最先端のはずはないでしょう。

常識があれば分かる話ですが、情弱な愛国軍オタや記者クラブ、防衛省関係者にはそれがわからなかったわけです。湾岸戦争後のペルシャ湾の掃海でも我が海自の掃海能力は世界一と海自は豪語していましたが、現場にいったら全くの時代遅れでした。

つまり要求する側も夜郎自大なわけです。

軍オタや産経新聞が大絶賛するF-2も長期レーダーの不調が治らず、また予定していた対艦ミサイル4発を搭載して実射実験もしたことがありません。当時の開発官が軍事研究で開発に必要な実戦のデータが無かったと認めています。

ところがそれでもテクノナショナリズムというカルトの信者は欠点までも長所のように解釈して弁護します。まさかお前ら中共から金をもらっているじゃねえだろうなあ?と、嫌味のひとつも言いたくなります。

F-3戦闘機の開発もお先真っ暗です。軍事技術に疎い政治家が防衛省、空自、産業界の自画自賛をそのまま信じています。まるでキャバクラ嬢のお世辞を本気にするようなものです。

まともな技術力もない上に、中途半端な開発費をかけて、できるのは劣化したF-35でしょう。それでいてお値段は法外に高くなるでしょう。

F-35A(空自サイトより:編集部)

アメリカと協力すると言っていますが、F-2のときもそうでしたがアメリカが革新的な先端技術を開示するわけがないでしょう。まるで何度もオレオレ詐欺に引っかかる爺さん、婆さんです。

F-3に関しては我が国の戦闘機の開発・生産基盤の維持を考えれば、いくつかのオプションがあるでしょう。まずはできもしない、あまり高度なものは目指さない。かけられる開発、生産予算を想定して身の丈にあったものを開発する。あるいは米国以外のパートナーを組むなどでしょう。

具体的にいえば、T-4練習機の後継として米空軍が採用したジェット練習機T-7Aレッドホークをライセンス生産し、同機をベースに戦闘機を開発する。その場合はできるだけボーイングではなくサーブを主たるパートナーに選び、できるだけ米国の影響力を排除する必要があります。練習機、戦闘機を合わせて300機以上生産するのであればコストも下げることができるでしょう。

これは主としてアラート、F-35を補完する戦闘機として使用すれば良い。調達・維持費が高いF-35をアラート任務で消耗させる必要はありません。某ロボットアニメの将官のセリフじゃないですが、数を揃えることも重要です。

それ以外ならば英国、独仏、スウェーデンと組んで開発する。その際には我が国主導を諦めた方が良いでしょう。主導する実力や調整力はありません。パートナーとして謙虚に学ぶべきです。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
「軽装甲機動車」後継選定の面妖


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。