今週のメルマガ前半部の紹介です。コロナ危機に際し、米国が国民への支援策として早々と一人当たり1000ドルの振り込みを行うことを決定しました。
一方の日本では一人12,000円だの10万円だの議論された挙句、所得等の条件付きで世帯当たり最大30万円の支給に落ち着きそうな雰囲気ですが、まだ確定ではありません。とりあえず政府から個人への支給が決まったのは「マスク2枚」だけ。
これを受けてSNS上では「国民を思う気持ちの差だ!」といきり狂う中高年の姿も目に付きます。本当に日本政府は渋ちんなんでしょうか。国民のことなんて何も考えちゃいないんでしょうか。
国と国民の関係を考えるいい機会なのでまとめておきましょう。
なんでも間に企業を挟むのが日本流
結論から言えば、米国並みとはいかずとも少なくとも欧州諸国以上には、日本政府は(雇用対策としては)手をうってはいるな、と言うのが筆者の見方です。
じゃあなんでマスク2枚しか貰えないんだと思う人もいるでしょうけど、それは社会のシステムが全然違うからです。
米国は世界で最も解雇のハードルが低く、余剰人員はあっという間に解雇され、今回のような危機に際しては燎原の火のごとく社会全体にクビの嵐が広がります。
【参考リンク】米新規失業保険申請件数、過去最多の328万件-桁外れの急増
くわえてもともと国民皆保険すらない小さな政府なので、解雇されたら医療機関にも行けず、家賃も払えずに生活が詰んじゃう人もたくさん発生するわけです。
で、たとえば「父ちゃん腹減ったよ」「しょうがねえなあ、ちょっと待ってろ」と言って家にあるショットガン抱えて近所のスーパー襲いに行っちゃう人なんかも大発生しかねないわけです。
それを防ぐために、ここ一番で速攻で個人に大盤振る舞いするわけですね。
一方の日本は、正規雇用の解雇は世界で一番ハードルが高い国の一つであり、OECDやILOからは「あまりにも正規雇用が保護されすぎているから非正規とバランスとるために規制緩和しろ」と勧告までされている国です(左翼はガン無視ですが)。
【参考リンク】Japan could do more to help young people find stable jobs
言い換えると、労働者の生活の面倒をすべて民間企業に丸投げしているわけですね。筆者はこれを“民営化社会保障”と呼んでいます。つい最近も70歳終業法が成立しましたが、あれなんか社会保障と雇用がパッケージ化している典型ですね。
そんな日本国では、危機に際しても米国ほどには失業率は上がりません。筆者の感覚でいうと米国で失業率10%ほどの不況に突入したとしても日本ではせいぜい失業率は5%程度でしょう。それは企業が頑張って雇用を死守しようとするからです。
余談ですが、ここで活躍するのがあの“内部留保”なわけです。それを勝手に国民で分配しようと言ってる共産党なんて連合から見ればコソ泥みたいなわけで、野党共闘なんて100%実現するわけないですね(苦笑)
だから、政府がまず手始めに支えなければいけないのは、頑張って従業員を守ろうとしている企業なわけです。これが米国と違って個人がありがたみを実感しにくい点でしょう。
どうしても雇用対策は直接個人に給付しろというのなら「企業は自由に余剰人員を解雇してください。労働者の面倒は政府が直接みますから」というロジックになるんですが、誰もそんな話はしてないですよね(苦笑)
その意味でいえば、政府は取り急ぎ雇用調整助成金の拡充を通じて、企業に休業手当の最大9割助成(大手は75%)を打ち出しているので、企業に対してはやることはやっているなという印象ですね。
一点フォローしておくと、「マスク2枚だけ」と同様に、SNS上では「政府が給料の9割を保証してくれるらしい」という情報が駆け回っていますが、これもやや正確さに欠けますね。
正確には休業手当の最大9割を助成というものであり、事業主が申請して事業主に支給されるものです。休業手当は平均賃金の6割なので、その9割、一日あたり上限8330円なので、まあ給料の9割からはだいぶ下がると思います。
【参考リンク】厚労省/新型ウイルス「雇用調整助成金」助成率最大90%に拡大
まとめると、個人から見ると日本政府から直接受け取れるのはマスク2枚なのでブチ切れたくなる気もわかるんですが、上記のように企業を通じて最低限やることはやっているというのが実際ですね。米国は例外としても、すくなくとも欧州以上には頑張っていると言っていいと思います。
「欧米と違い日本政府はマスク2枚だけだ!」ってイキってる人はたぶん「放射能で東京壊滅!」とか「TPPで日本はアメリカの植民地に!」とか言ってたバカなので今回もスルーしといてOKです。
以降、
企業任せの“見えないコスト”
日本に立ちはだかるポストコロナの大きな壁
Q:「上司がリモートワークを許可してくれません」
→A:「たぶん存在感がうすくなるのが怖いんだと思いますよ」
Q:「年収1.5倍のオファーは受けるべき?」
→A:「ワクワクするんならそりゃもう行くしかないでしょ」
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