コロナで追い風、オンライン診療
政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、収束するまでの時限措置で初診からオンライン診療を認める方針を表明しました。院内感染や医療崩壊を防ぐために早急に必要な対応であり、早期実現が望まれているところです。極力通院することなく、診察や薬の処方をしてもらいたいと考える都民は多く、オンライン診療体制整備を切望する声が私のところにも続々と届いていました。
私も2月末開催の都議会一般質問で、東京都でもオンライン診療を推進するように提案しておりました。
→詳しくは、遠隔医療(本会議あかねがくぼ一般質問)
その後、政府の後押しがありながらも一部の医師側から待ったがかかりと、この後に及んでもすんなりとは進まないことが浮き彫りになっていました。
参照:「コロナで出番」のはずが 消えたオンライン診療補助(日本経済新聞)
どんな業界でも規制の緩和を求める側と、守りたい側が存在するのは世の常ですが、医療に関しても例外ではなく、遠隔医療の推進派と慎重派に分かれるようです。
新型コロナウイルス感染症の拡大に際して、オンライン診療を推進し、災い転じて福と為すことで、医療分野におけるデジタル化の波への遅れを取り戻すチャンスにもなり得ます。
一つ懸念点があるとすれば、今回急ごしらえで実施するオンライン診療が、本来のデジタル化によるベネフィットである「高品質かつ低コストの医療サービス」は実現されず、院内感染を防ぐための「妥協した形での医療サービス」となってしまうことです。それをもってオンライン診療はやっぱりいまいちだったねと、利用者が誤解してしまうことは極力避けたいところです。
そこで、ヘルスケア・医療分野のデジタル化によるベネフィットをお伝えし、持続可能な医療には必要不可欠な流れだということを訴えたいと思います。
5G時代の持続可能な医療とは
世界を見ると、遠隔医療の市場規模は北米では2025年までに64BNドルとなり、2018年と比べ3倍以上に拡大し、中国やインドでも22%以上の成長と予測されています。
出典:Global Telemedicine Market size(Global Market Insights )
シンガポールも急速な高齢化や医療費増大という社会課題の解決にむけ、官民連携でこの分野に取り組んでいる国の一つです。例えば、血液や唾液をデバイスで読み取って検査し、その結果を医師が確認しますが、その際プライバシーを守りデータを安全にやり取りするためにブロックチェーン技術が利用されています。
5Gの普及は目前であり、AR/VRを使えば、遠隔とはいえ実際に対面している状態にかなり近い状態での診療が技術的には可能となるはずです。
働く世代にとって長い待ち時間が常態化している通院治療は極力避けたいものであります。特に高血圧症、糖尿病などの生活習慣病は通院の負担が大きいと治療を中断しやくなります。また高齢者など移動困難者とその家族にとってもオンライン診療は負担の軽減になり有効です。
日本において、デジタル技術を活用したオンライン診療などの遠隔医療は、普及が遅れています。都心では自宅や職場付近で医療機関は数多く存在していますし、医療の受益者は高齢者が比較的多いことも遠隔医療が広がらない理由ではないかと考えます。
膨れ上がる医療費にブレーキがかけられるか?
超高齢社会において、医療費の抑制について真剣に対策を講じなければならないことは明白です。5G時代においてはデジタル技術を使えば「健康の自己管理→予防医療→医療費抑制」という好循環を生みだすことが可能です。健康管理と遠隔医療の体制を一体的に実現することで、今後高齢化により益々膨れ上がる医療費にブレーキをかけていかねばなりません。
すでに医療研究としては、アップルウォッチなどのウェアラブル端末を使って血圧や心拍数などの生体情報を取得し、症状や薬の効果などを分析するといった取組が、日系企業や大学で始まっています。
名医の勘と経験頼みの医療から、テクノロジーを使って本人が健康管理できる時代になりつつあるのは喜ばしい限りです。
我が国のオンライン診療が遅れている理由
オンライン診療は都心にはほとんど普及していません。私の住んでいる杉並区内で探してみましたが、2〜3つ程度しか見つかりませんでした。
平成30年度診療報酬改定で「オンライン診察料」が創設され、在宅療養中や生活習慣病の再診など、オンライン診療が可能になりましたが、都内でオンライン診療が受けられる医療機関は非常に少ないですし、レセプト数でみても保険診療全体のうちオンライン診療は0.01%以下のようです。
オンライン診療では保険対象となる疾病が限定的であったり、半年以上の継続治療など保険診療の条件が厳しい点、また対面に比べて診療報酬の面で不利になる点が、クリニックが取り組むインセンティブがなく、結果普及していないということにつながっています。
今回のオンライン診療についての規制緩和は時限措置ですが、感染症収束後も元の厳しい条件に戻すのではなく、諸外国に遅れを取らないよう、ルールの見直しが必要と考えます。
オンライン診療が今までほとんど普及していないのは厚労省の制度設計力の問題だったのか、といえば、そうでもないようです。政府側は促進しようとはしているようですが、当の医療提供側が保守的で何かとブレーキを踏んでいる見方もあります。
例えば、「オンライン診療で万一見落としがあったら問題だ」として、オンライン診療を認める条件をやたらと厳しくしようとします。対面診断でも見落とす時は見落としますし、過去にも何度もそういう問題は発生していますので、メリットと照らし合わせて合理的に判断してほしいものです。テクノロジー、AIなどを盲信するのは問題ですが、医師の属人的な診断だけがベストになる保証は全くありません。
前述の通り、これからの医療はヘルスケアと一体的なプロセスで実現すべきであり、健康に関するヒストリカルデータを収集分析、早期に異変を察知して最適な治療につなげる、そのためにテクノロジーを活用し、患者がより主体的に自身の健康を管理できるようになるはずです。それに伴い、医師に求められる役割も変わっていくでしょう。
地元杉並区の医師会にオンライン診療が受けられるクリニックについて問い合わせたところ
「把握してないですが、ほとんどないでしょう。近くに診療所があるのに、オンライン診療なんて水臭いでしょう。」
という反応でした。
そういう感覚なのか、と驚きました。一方で、数少ないオンライン診療をされている医師に問い合わせたところ、
「遠隔医療は今使い勝手が悪いが、これからの医療に望まれている形なので、現行制度を改善してぜひ推進していただきたい。」
とコメントをいただきました。
遠隔医療は行政だけでは実現できません。技術進歩に対して、懸念点を強調してブレーキをかけるのではなく、一緒に医療の進化のために奮闘してくれる医師が増えることを切に願います。