台湾、昨年末のWHO宛メールを公表し「隔離治療」の意味を問う

高橋 克己

台湾の中央伝染病司令センター(CDC)を指揮する陳時中衛生福利部部長は11日、昨年12月31日にWHOに通知した「Statement of content of Taiwan CDC’s reporting email to WHO IHR Focal Point dated December 31, 2019」と題する電子メールの以下の内容を公表した。(11日 中央廣播電臺

News resources today indicate that at least seven atypical pneumonia cases were reported in Wuhan, China. Their health authorities replied to the media that the cases were believed not SARS; however the samples are still under examination, and cases have been isolated for treatment.

I would like greatly appreciate it if you have relevant information to share with us.

本日のニュース源は少なくとも7件の非定型肺炎の患者が中国武漢で報告されたことを示している。現地の保健当局はメディアに対し、その症例はSARSではないと思われていると答えた。ただし、サンプルはまだ調査中であり、患者らは治療のために隔離されている。

台湾とWHOの確執は様々あるが、本件はWHOが3月29日に「台湾の感染状況を注視している。台湾の対策から教訓を得ている」としたのに対し、台湾外交部が30日に「台湾がWHOに提供した情報が他の加盟国に共有されていない」とWHOを批判したことに端を発する。(30日 ロイター

WHOツイッター、台湾総統府HP

これにテドロス事務局長は8日、「台湾から差別的な個人攻撃を受けている」、「外交部長も同じだ」と反論、台湾も9日、「いわれのない主張だ」と抗議し謝罪を求めた。蔡総統もFBに「強い抗議を表明」した上で「テドロス氏を台湾に招きたい。ここに来れば、台湾人がいかに差別と孤立の中で世界と接点を持ち、国際社会に貢献するための努力をしているかが分かるだろう」と投稿した。(4月9日 時事通信

これに先立ち、蔓延急拡大の米国トランプ大統領も7日、WHOは「非常に中国寄りのように見える。これは正しくない」、「分担金の支払いを停止するつもりだ」、「幸運なことに我国はWHOによる米国境を中国に開放したままにするようにとの提言を早い段階で拒否した」とWHOを批判した。(4月8日 AFP

テドロス氏もすぐに反応し、「if you don’t want to have more body bags.(より多くの死体袋を望まないなら)」パンデミックを政治化することを避けるよう各国に要請、「今こそ国際社会が団結してこのウイルスとその破滅的な結果を阻止するために協力する時だ」と付け加えた。(4月8日 VOA

両国の反応ぶりは11日のAFP報道に詳しい。先ず米国政府が9日、WHOが昨年12月の台湾の警告を無視し「政治を優先」してパンデミックの深刻さを隠蔽しようとした中国に加担したとし、「WHOは114日に人から人への感染を示す兆候はないと発表した。世界各国の保健当局に対し、台湾の情報が公表されなかったことを深く憂慮している」と非難した。

これにWHOは、AFP宛の電子メールで米国の批判を否定、WHOが昨年末に台湾から受け取ったメールには「中国武漢で非定型肺炎の症例が見つかり、地元当局はこの疾患がSARSではないと確信しているとの報道がある」と書かれていたが「人から人への感染についての言及はなかった」と主張した。

また、WHOは台湾当局に対し、人同士の感染の疑いについてどのように「WHOに連絡を取ったか」説明するよう求め、「我々はこの電子メールには人から人への感染について言及されていないことだけは把握している」と強調した。台湾からの返答はないという。(以上、4月11日 AFP

新型コロナ対策の陣頭指揮を取る陳時中氏(Wikipedia)

陳時中部長が公表した冒頭の電子メールの内容は、このAFP取材に対するWHOの発言への回答だ。11日の中央廣播電臺の報道内容をもう少し詳しく見てみよう。キーワードは「atypical pneumonia cases」、「not SARS」、「cases have been isolated for treatment」だ。

台湾CDCはこれらを「武漢当局がヒトヒト感染を疑っている証左」とするが、WHOはそう認識していないということ。陳時中氏はこれを「WHO內行人講外行話」と断じる。つまり「WHOのような専門家が素人のような話をしている」のであり、「隔離治療が警告でないなら、何が警告か!」という訳だ。

公衆衛生の専門家なら「isolated for treatment」の意味は解る。WHOがそこを読み落とさず、加盟国に伝えていたならその後どう対応したかは明らかだ、と陳時中氏はいう。9日の米国による、WHOが12月31日の台湾の警告を隠して1月14日にヒトヒト感染の兆候なしと発表したことへの非難も同じ論拠だ。

中国も9日、「(台湾の)民進党は独立を追求するために無節操にウイルスを利用し、WHOとその責任者らに対して悪意に満ちた攻撃をし」、ネットユーザーと共謀して人種差別的なコメントを拡散していると主張、「我々はこれを強く非難する」と火に油を注ぐ。(4月10日 ロイター

台湾も負けずに10日、台湾法務部調査局が「関連の投稿は中国のネットユーザーが台湾人になりすまし、集団で故意に捏造したものだとの見解」を明らかにした。RFAの中国アカウントを通じて、台湾人を騙る定型化された謝罪投稿が100件近く投稿されているという。(4月10日 台北中央社

さて、この台湾・米国vs WHO・中国の非難合戦のどちらに与するべきか。鍵となる昨年11月から本年1月半ばまでの中国での出来事が、4月3日の大紀元に時系列で報じられているので以下に紹介する。読めば隠蔽は明らかだ。

2019年11月17日
SCMP紙が中国政府の文書情報として、最初の感染者は中国湖北省の男性で、11月17日に確認と報道。

12月1日
BBCが脳卒中を患う男性の感染確認を報道。男性は寝たきりで武漢海鮮市場との接触なし。一方、中国当局は最初の感染確認は12月8日としている(2月18日 大紀元)。

12月中旬
1月29日に発表された研究論文によると、12月中旬時点で既に「人から人への感染」が発生していた。

12月27日
中国の研究所が65歳の患者から摘出したウイルスのゲノム塩基配列を解読し、武漢市衛生当局と中国医学科学院に報告。

12月30日
武漢の艾芬医師が肺炎患者のウイルス検査報告を医師らのグループチャットに投稿。李文亮医師が検査報告を別のグループチャットに投稿し医療仲間に注意を促した。

12月31日
武漢市衛生当局は27人の原因不明の肺炎患者がいるとし「制御できている」と発表。人から人への感染の重大な証拠や医療従事者の感染は見られないとした。この日当局は集団感染について初めてWHO中国事務局に報告。

2020年1月1日
中国当局が武漢海鮮市場を閉鎖。湖北省衛生当局はゲノム解読研究所にウイルス検査停止と既存サンプルの破棄を求めた。武漢市当局は新型肺炎をめぐりデマを流したとして8人を処罰

1月2日
武漢ウイルス研究所がウイルスのゲノム配列情報を入手。情報公開は7日後。内部情報によると、武漢の人民解放軍海軍工程大学は38度以上の発熱がある訪問者を拒否。

1月3日
李文亮医師が訓戒処分。国家衛生健康委員会は研究者に対しウイルスサンプルをすぐに指定の病原体検知機関に提出するか破棄するよう通告

亡くなった李文亮医師(新華社サイトより)

1月7日
李文亮医師が2月7日に死亡。この日、習近平が初めてウイルス警戒を命じた。この情報は2月15日の機関紙「求是」に掲載

1月9日
新華社によると、専門家チームリーダーで中国工程院の徐建国院士が病原体を分析、肺炎は新型コロナウイルスと判断。

1月11日
中国衛生当局が同ウイルスの全ゲノム配列をWHOに提供。

1月11日~16日
湖北省で2つの重要な両会開催。1月11日、武漢衛生当局は感染者数の減少を報告。会期中新たな感染者の報告なし。

1月13日
タイで初の感染確認。患者は武漢から来た中国人観光客。

1月14日
WHOは中国政府の情報として、「人から人への感染」についての確たる証拠はないと報告。しかし「家族間の限定的な感染」はあり得るとした。

1月15日
中国当局は、人から人への感染リスクは低いと報告。