お肉券=最悪、アーティスト補助=最高、って差別では?

これは3回続きの記事の最後です。第一回はこちら、第二回はこちら

ここまでの話では、この国難の時期にまで果てしなく平時の「党派」のくびきから逃れられずに罵り合っているだけではダメだよね、という話をしてきました。

怒るな、とか、政権批判は控えろ…という人がいるのは、議論が混乱するような陰謀論や架空の過剰に理想化した外国と比べて当局を叩いたりする「出羽守バイアス」が溢れてしまうからです。

逆に言えば、「陰謀論や出羽守バイアス」を排除できれば、バンバン怒ってもいいし、政権批判もしていい。徐々にそういう参加者がみな必死になることによって起きるインタラクションは、第2回で述べたように、既に徐々に見えてきています。

第三回の今回は、本当にオープンな議論をしながら柔軟に変わっていける社会に日本がなるために、どうしても超えなくてはいけない壁についてお話します。

3. あたらしい意識高い系をはじめよう

最近ファインダースというネットメディアに、恥ずかしながら写真大量掲載のインタビューを受けたんですが、そこで述べたように、過去10年、20年の日本は、あまりにもこの「出羽守バイアス」的なものが一方で強すぎたために、逆に強烈な排外主義的な気分でバランスすることで、どうにかギリギリ「日本という国のオリジナリティ」を崩壊させずに守ってきたところがあると私は考えています。

「過剰に理想化した幻想の欧米社会」という話でこの期間中ネットのどこかで読んだ話で一番唸らされたのは、

「お肉券には大反対だけど、ドイツがアーティストに助成するのは大賛成というのは文化的な差別意識があるんじゃないか」

という指摘でした。危機時の休業補償と産業振興といった文脈の違いや順序の問題は多少あるけれども、「そこの扱いの違いにほんとうに全然そういう差別意識がないか?」というのは深く考えてみるべきです。

acworksヨココ/写真AC

欧米人が「アート」に価値を感じているのと同じような「全身全霊を込めて純粋になにかをつくる」的な精神性を、多くの日本人はそういう「特産品」に対して感じているはず…なのでは?

そういう無意識レベルのものも含めた「無数の出羽守バイアス」が溢れている現状では、そういう言論が一つあるごとに、「排外主義的ななにか」で埋め合わせてバランスしておかないと、ほんとうにその土地のローカルな事情に立脚した政治は行えないことになりますよね?

いろんな人が言っていることですが、混乱する民主主義国家を尻目に強烈な独裁的国家が早々と事態を収拾しつつある現在、今回のコロナ問題の世界的紛糾は、ある種「欧米という理想」が大きく相対化されるムーブメントを生み出す可能性があります。

それが単に「まだ人権とか民主主義とかで消耗してるの?」みたいなものになってしまわないためには、「出羽守バイアス」的なものをちゃんと中立的に検証し、それぞれの国のほんとうの事情にあった議論が行える環境にしていくことが必要です。

「過剰に理想化した幻想の中の欧米」を持ち出してありとあらゆるローカルな存在を上から目線でぶっ叩きまくる…これが「古い意識高い系」

だとすると、

欧米的な理想は決して諦めないが、ローカルな事情にちゃんと向き合うことからは逃げない…そういう「あたらしい意識高い系」

がこれから必要な時代が来ているのです。

今回の混乱をちゃんと乗り切ることができれば、日本は「あたらしい意識高い系」ムーブメントによって、今後さらに激化して第三次世界大戦の可能性すらありそうな米中冷戦の時代において、「欧米がわ」でも「アンチ欧米がわ」でもない、他のどこにもない希望を提示できる国になれますよ。

過去20年、グズグズと変われずにいて、どこか排外主義的な気分で埋め合わせてバランスせざるを得なかったのは、「こういう希望」の種を捨てずにいたからなんだな!という理解が生まれ、そして同時に、今までどうしても必要とされていた「日本社会の良くない部分」をやっとやめることもできるようになるはず。

みなさん、必死に怒りましょう。バンバン政権批判もしましょう。しかし、陰謀論や出羽守バイアスを廃して、「ほんとうにリアルな」議論をしましょう。

次回は、紛糾するPCR検査数を増やす増やさないといった問題も含めた、日本の専門家会議のあり方について、冷静な論点整理と、こういう時に「世論」はどういう「批判や提言」をしていけば有意義になるのか?という話をする予定です。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。

また、この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。

「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。

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倉本圭造 経済思想家・経営コンサルタント
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