しゃべって説得できるようになろう

ゼネコンに勤めていた時代の私のある二人の上司は印象的でありました。両名とも非常に頭の回転が速いのですが、しゃべって我々部下に指導説明する能力が十分ではないため、その上司が何を求め、何を指示しているのかわからないのです。そしてもう一つの共通点は二人とも大変早口でありました。

私は比較的傍で「お仕え」したのでいろいろな方が私のところに来て、「さっき君の上司が言っていた例の件だけど、あれ、どういう意味なのかな?」としばしば解説を求められたりしたものです。別に私は解読器ではないのですが、長くいると「ははーん、こういうことか」とおおむね理解できるようになります。

ある時、無礼講の飲み会でその上司に「コンピューターの処理能力とアウトプットするスピーカー性能に差があり過ぎませんか?」と皮肉を言ったのを覚えています。ただし、共通して言えるのは二人とも極めて能力が高く、会社でも大成したことでしょうか?

私の周りには数多くの成功者がいます。そしてその成功した方々とご一緒すると話が長い方が多いのですが、下手の長談義ではなく、ネタがよくもこれだけ出てくるな、という感じなのです。たくさん喋るというのは頭の中に多くのインプットがありそれを自分なりに考え、処理しているという意味です。

例えば大学の先生は90分間、延々と講義をするわけですが、それだけしゃべる研究材料があり、論文などを通じてまとめをしているからでしょう。多くの経営者でも年齢が増せば増すほど経験値が増えるので面白い話を聞くことができます。もちろん、若い方でもその奥行きが深い方はたくさんいます。

写真AC:編集部

講演ができる人とはしゃべりを通じて人に伝授し、共感を覚えてもらい、聞いてよかったと思わせる能力があることを意味します。多くの方は「15分間しゃべってください」と言われると「とんでもない」と手を横に振るでしょう。なぜでしょうか?経験の数と奥行き(深さ)とトークの技術の積で表せる体積が小さいからなのでしょう。

ならばまず、これを増やすことを心がけましょう。経験数を増やすコツはどんなものでも貪欲に興味を持ってのぞき込むことだと思います。最近はネットでもAIが勝手に詮索して「こんな記事も読んでいます」「こんな商品も見ています」と関連付け型の押し込みが増えていますが、私はあれは奥行き(深さ)を推し進めるには良いのですが、経験数を増やすのには真逆だと考えています。

経験値はAIが予想できない全く新しい世界に突き進むことが生まれます。それには自分の殻を打ち破ることだと思います。

ではもう一つ、トークの技術はどうやって習得すべきでしょうか?最近、ショートテキストにたくさんのメッセージをもらいますが、意味不明のものが多すぎるのです。あえて例えるならネットニュースのタイトルだけ見せられる感じでしょうか?「で?」と聞き返さねばならないテキストがほとんどなのですが、送信者はそんなことは考えていません。つまり発信者の身勝手さで「なんでわかんないの?」なのです。

トークの技術は全く何も知らない人に自分のメッセージをわかりやすく伝えるというほんの「ひと手間」を賭けることです。あとちょっと付け足して書いてくれるとあぁ、なるほどとわかりやすくなります。大したことではないのですが、これが現代人のコミュニケーション下手の原点ではないかと思うのです。

言い換えれば今の若い方は携帯のテキスト世代でリアルの人とやり取りしてきちんと向かい合って話す機会が非常に減っているのです。「伝える」という部分がほとんど欠落しているので相手がわかってもらえず、自分までイライラするという結果になります。

私の言っていることは子供を諭すような話なのですが、びっくりするぐらい現代人はここが欠落しているのです。動物のような擬態的表現しかできず、ネットの掲示板などを見ていると「ここは動物園か?」と思わせるようなところもあります。

人間には事実を伝える、気持ちを伝える、感情を表現する、説得するなど様々な能力を言語を通じこなす能力を備えています。それがこの20年ぐらいの間に確実に欠落しつつあり、ギスギスすることもあるのが残念に思われます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月19日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。