「8割おじさん」西浦博氏のインタビューが文春オンラインに出ているが、問題の基本再生産数については次のように答えている。
私のいまのシミュレーションはR0(1人が平均何人に感染させるかを示す「基本再生産数」)を2.5にしています。これは、感染拡大が爆発的に起こったヨーロッパ、主にドイツが2.5だったので、日本でもそれ相応で流行が拡大すると想定した数字です。
専門家会議が発表した東京都のR0の推定値である1.7でシミュレーションするべきではないかという主張も、正当なことだと思います。しかし、私自身は日本でもR0が1.7から上がっていく可能性は十分にあると考えています。
この「東京都のR0の推定値である1.7」というのは、4月1日の専門家会議資料にある実効再生産数Rの誤りである。これは文春の記者の勘違いかもしれないが、いずれにせよ西浦氏が再生産数1.7を2.5に嵩上げしたことは間違いない。その根拠はなぜか「日本がドイツに近づく」ということになっている。
これは小さな違いではない。SIRモデルでR0=2.5とすると上のような感染曲線になるが、R0=1.7だと下のような感じである。
ピーク時の累計感染者数は2.5だと約3000万人だが、1.7だと約1200万人。これ以外のパラメータの設定にもよるが、R0を1.7にしただけで感染者数は60%も減るのだ。
R=(1-p)R0<1
という西浦氏の式に従うと、必要な接触削減率pは
p>1-1/R0
だからR0を1.7とすると、p>0.41、つまり国民が41%接触削減すれば、Rを1以下に収束させることができる。R0が2.5だとこれが60%で、それを2割増しの8割にしたのだから、「8割削減」ではなく「4割削減」が正しいのだ。少なくとも「7割じゃだめで8割だ」という根拠はない。実際には、きのうの専門家会議で西浦氏も認めたように、東京都の感染増加率は鈍化している。彼が
科学的な使命感を強く感じ、私自身が専門家個人として発表しなければならないと感じたのです。アメリカやイギリスなどでは、私と同じ研究をしている人たちは国と一緒に推計を公表して、その上でリスクを認識して対策を決めています。
というなら、彼のシミュレーションの根拠となった感染者数などのデータや計算式を公表すべきだ。これは彼の所属している厚労省クラスター対策班の説明責任である。
追記:ツイートの埋め込みを追加した。