【なぜ8割の行動制限が必要なのか】
北海道大学 西浦 博より解説します。
行動制限する人(p)の割合を、欧米の例を参考にR0(基本再生産数)と Re (実効再生産数)から導き出すと6割です。
なぜ8割としたかを解説しています。#新型コロナクラスター対策ゼミ pic.twitter.com/I6uRw4u6ri
— 新型コロナクラスター対策専門家 (@ClusterJapan) April 7, 2020
「8割おじさん」を自称する西浦博氏が、「8割の行動制限」の根拠を語っている。それは「実効再生産数が1より小さい」すなわち実効再生産数Rを
R=(1-p)Ro<1
とすることが目的だという。これは疫学の教科書にも出てくる集団免疫の条件で、予防接種の場合はpが必要な接種率である。Roが2.5だとすると、この式からp>0.6となる。ここでpを予防接種率ではなく接触削減率と考えると「6割削減」ということになる。
ではなぜ8割なのだろうか。西浦氏はバズフィードのインタビューでこういう。
例えば昨日、ホテルに帰るために新橋を歩いていたら、マスクをつけたベンチコートをきた女性が、「ガールズバーいかがですか?」と声をかけてくれるんです。ああ開いているんだなと思いました。[…]
そういうことを加味して、二次感染が起こる再生産数をもっと詳しく検討していたんです。医療従事者同士で感染が起こる確率、医療従事者から他の業界の人に感染が起きる確率、風俗での接触で感染が起こる確率などです。
「6割といっても水商売のおねえさんは聞かないから2割水増しした」という国民をバカにした話である。
「基本再生産数2.5」の根拠は何もない
それより本質的な問題は、このRo =2.5という前提が、まったく証明されていないことだ。西浦氏はこれを生物学的な定数と考えているようだが、これまでのWHOの実測では、Roは1.4~2.5 と大きな幅がある。
これに対してRは実測値で、日本全国では1以下である。東京の新規感染者数は3月にピークアウトし、専門家会議の推定では1.7だった。2.5と1.7の差は、指数関数で増えるとすると大きい。
西浦氏はRo=2.5と想定し、東京が感染爆発して30日後に新規感染者数が6000人になるというシミュレーションを政治家に売り込んでいるが、東京都の新規感染者数(陽性患者数)は増えたり減ったりで、図1のように4月10日には189人。これまで新規感染者数は、4月に入っておおむね毎週100人ぐらい増える一次関数になっている。
図1 東京の新型コロナ新規感染者数(東京都)
その最大の原因は検査が増えているからだが、このペースが続くと、あと30日で新規感染者数は700~800人ぐらいになるだろう。最大限にみて毎週2^n倍になるとしても約3000人で、6000人という予測は、少なくとも東京都の公式データからは出てこない。
日本の実効再生産数はなぜ低いのか
西浦氏が何を勘違いしているのかわからないが、たぶん「本当は2.5のRoを自粛で1.7に抑え込んでいるだけで、油断するとRが増えて感染爆発する」と考えているのだろう。
残念ながら、まったくそういう兆候はない。最近はPCR検査が増えて感染者数が増えているが、それでも日本の感染率(人口比)は、図2のように先進国の圧倒的トップ。ロックダウンで行動制限したヨーロッパの1/30である。この差は自粛では説明できない。
図2 新型コロナの累計感染者数(札幌医科大学)
中国と韓国の感染者が少ないのをみても、東アジアに固有の原因があることは十分考えられる。それはBCG接種による自然免疫かもしれない。今まで中国との交流の中で新型コロナに似たウイルスの免疫ができているのかもしれない。
Roが2.5だとすれば日本人の60%が感染するまで集団免疫はできないが、何らかの原因で日本人に免疫ができてRoが1.7になっているとすれば、上の式は
(1-p)Ro=(1-p)×1.7<1
となるのでp>0.41、つまり人口の41%が感染すると集団免疫が実現する。全体状況を知るには(西浦氏も認めたように)、日本人に免疫がどれぐらいできているか調べる抗体検査が必要である。自然免疫は抗体検査で検出できないかもしれないが、それなしに「8割削減」で私権を制限をするのは順序が違う。
ところが専門家会議は、BCGにも抗体検査にも言及しない。それは今までの彼らのクラスター追跡などの路線が否定されることを恐れているからだろうか。