1. 雇用調整助成金制度は危機モードから程遠い
厚生労働省は、本当に雇用を守る気があるのだろうか。雇用調整助成金の更なる拡充の発表(4/25)には落胆が大きかった。なぜならば、肝心の支給要件・手続の簡略化が何一つ示されず、助成金額の上限である1人1日当たり8330円の引上げが行われなかったからである。
そもそも、厚労省はじめ政府には、今が平時ではなく、危機という認識があるのだろうか。現在の本制度(注)は、平時の延長線のツギハギでしかなく、危機モードになっていない。
(注)ごく簡単にいえば、経営環境が厳しくなってきて、事業主が従業員に一定条件を満たした休業手当を払って休んでもらい、雇用を維持したときに、事業主に助成金が支給されるものである。
厚労省のホームページには、「特例を拡大しました」「申請書類を簡素化しました」「計画の届出を事後にしました」などとの言葉は踊る。
しかし、事業主にとって最も知りたい情報である、「どういう条件を満たせば」「いくらの金額を」「いつもらえるのか」というのが、全くもって分かりにくいままである。
2. 危機の助成金をもらう条件が複雑すぎる
ガイドブックの簡略版をみても、ズラリと要件が並ぶ。少なくとも15以上はある。これだけの数でも資金繰りが不安な事業主にとって頭がクラクラするであろう。
具体例をみると、休業手当の額が従業員各々の平均賃金の6割以上という条件があり、過去3ヶ月の平均賃金を算出しなければならないが、一体過去3ヶ月がいつからいつまでかなど非常に分かりづらい。
これはまだしも、休業等規模要件(注2)というのが、
判定基礎期間における対象労働者にかかる休業の実施日の延日数が、対象労働者にかかる所定労働延日数の1/40(大企業の場合は1/30)以上となるものであること
とされているが、普通に調べても理解するのに時間がかかる。
今、事業主を悩ませる要件が本当に必要なのか。
(注2) 本制度上の休業とは、事業主が所定労働日に従業員を休ませるものをいう。
もう一つだけ触れる。例えば、
所定労働日の全1日にわたるもの、または所定労働時間内に当該事業所における部署・部門ごとや、職種・仕事の種類によるまとまり、勤務体制によるまとまりなど一定のまとまりで行われる1時間以上の短時間休業または一斉に行われる1時間以上の短時間休業であること。
などの要件もある。
これもすぐに読んで分からない。一定のまとまりとかを要件とせず、4月1日から6月30日の間に限っては「事業主側から1時間以上従業員に休んでもらったら全て対象にする」ではダメなのか。
厚労省からすれば、社労士に相談するから大丈夫と高を括っているのだろうか。しかし、全国社会保険労務士会連合会の調査(2016年3月14日)によれば、回答企業のうち31.1%が利用したことがないという結果もある。
今は、限られた事業主が制度を利用する局面でなく、非常に多くの企業が制度を利用する危機の局面であることから、制度は大簡略化すべきだろう。
3. 助成金はいくらもらえるのか
話がそれたが、助成金の金額だが、普通に考えれば、「休業手当」×「助成率」と思う。しかし、実際は「休業手当に相当する額」×「助成率」(上限は8330円)となっている。あらためてこの相当する額も難解な計算をしなければならないのだ。
手間だけいえば、もう勘弁して欲しい! という感じではないか。
なお、休業手当は過去3ヶ月の従業員に対して支払った賃金の総支給額を3ヶ月の総日数で割って算出した1日あたりの平均賃金に休業手当の支払い率(6割以上)をかけた額を所定労働日分だけ支払えばよいことから、仮にひと月休業し、支払い率6割だとすると、従業員に支払われる休業手当は「平均賃金の6割の額」の7割程度になってしまうため、今回の危機で十分なのかという問題が出る。
休業手当のベースとなる平均賃金の算出において所定労働日で割ることとし、休業手当と助成金の算出方法を統一すべきではないか。
4. いつもらえるか
支給申請のタイミングだが、厚労省のFAQ(Q&A)をもとにすると、
支給申請は判定基礎期間の翌日から2ヶ月以内に提出してください。・・・支給申請書を提出後、労働局において審査を行い、書類が整っている場合については、1ヶ月程度で支給決定又は不支給決定を行います。
とある。更に、休業の計画届も出さなければならない。
ここも難しい言葉があるが、要するに、休業を終えて最初に来る賃金締め日の翌日から2ヶ月以内に申請すると考えるようである。
仮に5月6日まで休業し、5月15日が賃金締め日と仮定し、5月下旬頃に申請できれば6月下旬頃には決定という流れを思い描いていると思うが、ハローワークの逼迫状況を考えれば、大きく遅れる可能性も囁かれる。
ここで重要なことは、計画届出や申請に手間がかかるとともに、申請してから早くても1ヶ月で支給決定という段取りになるので、休業手当を先に払った事業主も助成金をもらえるかどうか不安であり、資金繰りの逼迫も想定される。
平時であれば百歩譲って、経営環境が厳しいときに雇用を守るために助成金を出すのだから難しい条件や手続も勉強するなり、社労士に依頼するなりして、なんとかしてこい的なお上の発想が成り立つのかもしれない。
しかし、今は100年に1度の危機である。
政府には、心から危機にある事業主や従業員の現状をよくイメージして、国民のために、抜本的に簡素化し、かつ、予算を大胆につけて、雇用と事業主を守ることに最大限力を注いで欲しい。ではどうするか。
5. 危機の「雇用支援制度」とする
支給要件と申請手続を大幅に簡素化する。細部は行政に詰めて欲しいが、例えば、4月1日から6月30日の間は、
(1)コロナの影響で売上高が最近1ヶ月で前年同月比5%以上減少していた場合に
(2)平均賃金の6割以上の休業手当を支払って従業員に1時間以上休んでもらい雇用を守ったときは、
助成金の対象とすることを原則とする。
申請書は、休業期間、休業手当の総額、助成金の申請額などで足りるとし、確認書類として給与明細などの添付を軸としてはどうか。
この際、助成金の金額の算出は、所定労働日ベースで算定した平均賃金をもとにした休業手当の算出方法とあわせ、
(1)中小企業においては1日あたり上限8330円を撤廃し、休業手当の全額分を助成
(2)その他事業者においては1日あたり上限8330円の助成又は休業手当の7割の助成
を選択、を軸に考えるのが良いと思う。
この問題提起から1人でも多くの雇用が守られ、事業主が危機を乗り越えられることを切に願う。
※注:この原稿は4月25日までの情報に基づき書いております。
藤岡 隆雄 元金融庁課長補佐、現立憲民主党衆議院栃木県第4区総支部長
1977年生まれ。1999年、大阪大学基礎工学部卒業、大阪大学大学院在学中に国家公務員一種(経済職)試験合格。2001年、金融庁入庁。金融危機克服の法案作り等に携わる。2008年、総務企画局企業開示課課長補佐。退職後、衆議院議員政策担当秘書を経て政治活動中。公式サイト。