スペイン:感染拡大で地下経済の被雇用者200万人の収入が途絶える

スペインでコロナウイルス感染拡大による影響は様々な分野で負の影響を及ぼしている。そのひとつに地下経済で収入を得ていた、およそ200万人の被雇用者の収入が途絶えたことである。(参照:elconfidencial.com

地下経済というのは支払い、そして受領が帳簿のどこにも記載されない取引である。一番分かり易いのが賄賂の提供者と受領者の関係かもしれない。双方のこの取引はどの帳簿にも現れない。

スペインの「地下経済」とは?

一般に被雇用者が地下経済で働くのはそれを敢えて好んでするわけではない。そうせざるを得ない事情があるというのが大半である。例えば、雇用主がコストを抑える意味で被雇用者への給与の支払いを現金で支払って被雇用者を雇うことによって発生する社会保障費の雇用主が負担する分を負担をしない。そのようにしてコスト削減を図る。職を探している者にとってはそれが不満でもそれを受け入れて働かざるを得ないということが往々にしてある。

被雇用者にとっても少額の給与では社会保障費などを支払うと残金でひと月の生活費を賄うことができなくなるから闇で給与の支給を受ける。

高額の給与を貰っている場合はそれをすべて申告していれば税金が高くなるから給与の一部を正式に貰い、残りは闇でもらう。

さらに、企業において社員に払う給与のすべてを申告していたのでは、企業の競争力を失うとして残業手当は現金で支払ってそれを経理で計上しないという場合がある。

では、その現金はどこから得るのかと言えば、買主が消費税を節約するために現金でその企業の商品を購入するという場合に発生した現金が社員の残業手当の支払いに充てられることになる。ということから企業の商品売買及び残業手当の支払いは帳簿の仕分けには一切表れない。これが「地下経済」取引である。

一説には400万人の「闇」失業者も

一般にスペイン企業の売上の3割は経理に計上されない売上であると言われている。スペインがバブル景気で潤っていた時は建設業者はこの地下経済取引を積極的に利用していた。同様にサービス業もそうであった。

コロナウイルス感染拡大でスペインの多くの企業が政府による休業補償を受け入れた。景気が回復した時に解雇した社員を再度雇用するという義務がある。その間は社員に支給されていた給与の7割を政府が支給することになっている。ところが、地下経済で社会保障費も支払わず、俗に言う闇で働いていた被雇用者には政府からの支給は何もない。

そのような被雇用者が今回およそ200万人発生していると推測されている。闇で働いていた関係からその実態が政府でも正確につかめないでいる。その数は400万人という専門家もいる。

地中海諸国で高まる地下経済プレゼンス

地下経済がGDPに占める割合はおよそ25%、金額にして2500億ユーロ(30兆円)というのが税務署の検査官の組合が2018年に推測した数字である。2016年に他の専門家によれば18%だとしている。(参照:diariosur.es;

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しかし、これも景気の良い年と不況の年によって多少の差が出て来る。いずれにせよ、スペインの地下経済のGDPに占める割合は20%前後ということになる。地中海沿岸の4か国、ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルの中では記載した順に地下経済の比率も高くなっている。

特に、ギリシャでは税金を払うのが義務だという概念が一般に市民の中に浸透していない。だから例えば消費税を払わないのが当たり前という感覚を多くの市民がもっている。そのため、ギリシャでは地下経済を利用して脱税が横行している。4か国の中で一番真面目なのはポルトガルである。それは国民性から来るものかもしれない。地下経済がEUの中で一番少ないのはオーストリアで、南欧4か国の半分の率である。(参照:lavanguardia.com

氷山の一角?脱税の問題も

ただし、雇用そのものに直接関係した地下経済は8%と推測されている。すなわち、残業手当を現金で払ってそれに伴う税金を節約するといったことや、現金で給与を支払って恰もその社員は企業にとって存在しないかのような処理の仕方による脱税だ。

最悪は失業手当を貰っていながら、闇で働いて報酬を得る人だ。仮に、これが摘発されると罰金は最低1万ユーロ(120万円)から最高18万7000ユーロ(2200万円)まである。(参照:diariosur.es

これまで税務署が摘発した地下経済による脱税の最高額は2015年に記録された156億ユーロ(1兆8700億円)であったが、それは脱税していると推測されている金額の20%にも満たない額だと見られている。(参照:diariosur.es

いずれにせよ、コロナウイルス感染拡大で収入の道を失った200万人の内の多くは家族持ちであろう。これから経済不況が深まって社会保障費を支払っていた被雇用者の失業率が25%近くにまで及ぶと推測されていく中で、彼らが職場を得る道はますます厳しいものになる。