完全にテレワークしたいと思わない日本人

新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークを進める動きが広がっています。パーソル研究所が実施したテレワークに関するアンケート結果を見ると、テレワークのメリットや課題が何となく見えてきます。

テレワークが進めば、通勤ラッシュも無くなり、時間的な自由も確保しながら、生産性の高い仕事ができると思っていましたが、アンケート結果を見ると、満足度が意外に低いのに驚きました。

図表のように、テレワーク実施前後の変化の質問に対し、生活の満足度が高まった(19.2%)よりも低まった(25.0%)の方が高いという結果です。また、新型コロナ収束後のテレワーク継続意向に関しても、続けたいという人の比率は過半数を超えていたものの53.2%に過ぎず、わからないや続けたくないという人の比率が予想以上に高いと感じました。

満足度が低い要因としては、体制が整っていないことが挙げられます。例えば、セキュリティーの問題のないパソコンや、プリンター。また、決済の押印手続きなど、リモートではできない仕事があると、業務が滞り、フラストレーションが溜まります。家族がいる場合、自宅で仕事をするスペースが確保しにくいのも問題です。

しかし、テレワークに消極的な理由は、それだけではないようです。

テレワークの課題という回答の中には「会議が減ってさみしさを感じる(37.0%)」「仕事に集中できない(43.6%)」「チームに一体感が感じられない(26.2%)」といった「オフィスで一緒に仕事がしたい願望」もかなりあるようです。

日本の会社はいまだに、人間関係を重視し、業務範囲が曖昧な中、貸し借りによって仕事を進める風土が残っています。顔を合わせないと仕事をしている実感を感じにくく、自分が評価されているかも見えにくい。上司や同僚とのコミニケーションが、ネット上のコミュニケーションだけでは、満たせないということです。

このような体質を変えた方が良いと言うのは簡単ですが、完全になくすことができません。

テレワークとしている人たちの話を聞いていると、長い期間会社に行かなくなると、たまには会社に行ってみたい気持ちになるようです。完全なテレワークではなく、週に何日かは会社に行く。そんな都合の良いテレワークが多くの会社員の理想のように見えてきました。

接客や対面の仕事で、そもそもテレワークに対応できない仕事をされている人もたくさんいます。また、アンケート結果からは大手企業ほどテレワークが浸透し、中小企業はインフラなどの問題から導入が遅れているという結果も見えてきました。

テレワークの流れが、これからも進むことは確実だと思いますが、そのスピードは多くの人が予想するよりも緩慢ではないか。調査の内容を見てそう感じました。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。