スペインのコロナ感染死者数、1万人統計漏れとメディアが報道

スペインでコロナウイルス感染者と死者の数はメディアで良く疑問視されている。4月中頃の時点で死者数は公式発表から少なくとも1万人が統計漏れになっているのが指摘されて、今もそれが加算修正されないままである。5月6日の時点で感染者22万人、死者数2万6000人ということであるが、感染者数も実際よりも少ないのと同様に、死者数が本来は凡そ3万6000人あたりだということだ。

公衆トイレを消毒するスペイン軍の作業員(NATO/flickr)

これは政府が死者の数を隠蔽しようとしているのではなく、死者の数を当初実際のそれよりも少なくするために「コロナ感染による死者」と正式に認定できるための条件を設けたからである。

サルバドル・イーリャ保健相がコロナウイルス感染による死者と認める方法はEUが厳しく要求したものに従っていると繰り返し述べていた。ところが、問題は死者がコロナ感染によるものだと認定するには、政府は以下のことが明らかにされている必要があるとしたのである。

  • 入院した患者がコロナに感染しているという抗体検査を受けて陽性と判定されていること。問題は検査の実施には時間がかかる。しかも、短時間検査キットが当初不足していたということから入院しても検査が実施されずに死亡した患者が多数いた。そのような患者の死亡はコロナ感染による死者とは統計されなかったのである。
  • 死後の解剖結果でその感染が確認されていること。ところが、保健省は解剖を禁止したのである。これでは解明は無理となる。
  • 火葬は出来るだけ早急に行うこと。死後24時間以内に行うことが望ましいとした。問題は死者が多数出たために24時間以内の火葬だと感染していたか否かの検査確認もできる状態にはなかった。

新型コロナ対策について説明するサルバドル・イーリャ保健相(Wikipedia)

例えば、マドリードの場合、昨年の4月は一日に80人が死亡していたが、今年の同月は一日に350人が死亡するという事態になっていた。死者が感染者か否かを確認できる時間がなくなっていた。(参照:abc.es

以上から、仮に心臓病を患っている人がコロナウイルスに感染した症状を訴えて入院して抗体検査を受ける前に死亡した場合はコロナウイルスによる感染死亡者に加えられないのである。死亡の原因を心臓疾患によるものといった死亡診断書が作成されるだけである。

ということから、法務局の登記所の組合会長を務めるハビエル・ホルダンが「死者の数が1万人足らない」と指摘した根拠がここにある。(参照:abc.es

彼がその根拠にしているひとつが、コロナウイルスに感染していながら感染死者と認定されていない老人ホームでの高齢者の死亡である。スペインは2040年には日本を追い越して世界で長寿国ナンバーワンになると予想されている。高齢者の多い国なのだ。その要因のひとつとしてスペイン料理はより健康的であるとされている。特に地中海料理がそれだ。

例えば、マドリード州には474か所の老人ホームがあるが、4月の段階でコロナ感染拡大につれて老人ホームで生活していた高齢者の内の1065人がコロナ感染者として死亡したのであるが、それは高齢者の死者全体の7割を占めているだけだという。残り3割は感染していたはずであるのに検査を受けていないことから感染による死者とは認定されていないということなのだ

スペイン全体で見ると、4月までのコロナ感染拡大期間中に老人ホームの高齢者で死亡したのは4858人いたが、コロナ感染患者と認定されて死亡した高齢者は僅か1517人しかいなかったのである。即ち、3300人余りは死亡したが、コロナ感染による死者として統計に加えられていないのである。(参照:elplural.com

更に、コロナ感染による死者の認定で疑わしい例として高等裁が指摘したのはカスティーリャ・デ・ラ・マンチャ州である。例えば、同州の首府トレドの場合だと、4月の時点で725人が死亡しているにもかかわらず、コロナ感染による死者は307人しかいないのである。感染疑わしいとされていた死者が338人もいたというのだ。(参照:okdiario.com

スペインは組織力が脆いという点が今回浮彫にされた。即ち、独立した自治州といっても州の保健省はパンデミアに備えるだけの体制になっていない。その上、スペイン政府の保健省もパンデミアの前に全国に一貫した指示指導ができる体制になっていないという弱みが今回浮彫にされた。ということで各自治州でコロナ感染による死者と認める基準も統一していなかったのである。

更に、全国にある8000余りの小さな自治体では葬儀は行っても政府が指定したような死亡証明書を作成できる体制になっていない。だから、そのような小さな自治体の住民が仮にコロナ感染で死亡しても、感染による死亡だと認定して証明書を作成できる登記所も存在していないということだ。

3月12日から始まった封鎖であるが、ひと月の完全封鎖はGDPでマイナス2%をもたらすとされている。特に、観光産業がGDPの12%を占めるスペインにとってこれから観光時期に入っても外国からの訪問者は期待できない。経済面で深刻な事態を招くことは必至である。