きのうの記者会見で菅官房長官が「政府は集団免疫の考え方は採用していない」と述べた。政府は「徹底したクラスター対策による感染封じ込めで、感染のスピードを抑えながらピークを後ろ倒しにすることを目指している。国民の皆さんが集団免疫を獲得することを目的として行ってきていることではない」という。
これは当然だろう。5月1日の専門家会議の分析・提言でも「感染の拡大を前提とした集団免疫の獲得のような戦略や、不確実性を伴うワクチン開発のみをあてにした戦略はとるべきでない」と書いており、これはWHOの方針でもある。
しかし「集団免疫戦略」という政策は存在しない。これは多くの人が感染すると免疫をもって防護壁になるという理論で、政策目標にするようなものではない。スウェーデンも、高齢者を隔離してロックダウンしないだけである。その結果として集団免疫が実現するかもしれないが、しないかもしれない。それは収束の副産物であって必要条件ではないのだ。
厳密な意味での集団免疫が、新型コロナで実現する保証はない。基本再生産数Roを2.5とすると、人口の60%が感染しないと実現しない。日本では7500万人以上、ヨーロッパでは3億人以上が感染するまで流行は終わらない。これは政治的にはありえない選択である。
緊急事態宣言は最初から必要なかった
もし集団免疫が実現したら実効再生産数Rは1になるが、逆は必ずしも成り立たない。集団免疫は均質な集団の中で一定の速度で感染する「摩擦のない社会」の概念だが、現実には最初に感染しやすい人がかかり、次第に免疫の強い人に感染するので、集団免疫ができる前に流行は減衰する。
ドイツでは感染率は10%前後で、集団免疫は成立していないが、Rは1を下回り、ロックダウンを解除し始めた。「ドイツの死者増加率は日本の9.6倍なのに、なぜロックダウン解除か」と驚いている人がいるが、これは逆である。
日本の死者はドイツの目標をはるかに下回り、R<1なのだから、すでに集団免疫と同等の状態を実現している。目標は感染が収束することであって、それがゼロになることではない。
日本のRは次の図のように4月上旬から1を下回っており、ドイツの基準でいえば自粛を解除してもよかった。それを逆に4月7日に緊急事態宣言を出したものだから、出口がなくなってしまったのだ。
政府が曖昧な話をしている間に大阪府が独自の「出口戦略」をつくったが、そこには肝心の実効再生産数Rがない。これについて吉村知事はこう説明した。
実効再生産数は重要な指標なので、当然、大阪でも検討した。しかし国から公表された実効再生産数によれば、緊急事態宣言前の4月1日時点で既に全国平均も東京も1を下回っている。最も緊張が高まった宣言時も1以下。4月10日時点で東京0.5、大阪0.7。解除基準には使えない。 https://t.co/F4OXNPf79L
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) May 6, 2020
これは逆である。4月上旬にRは1を下回っていたのだから、緊急事態宣言は必要なかったのだ。集団免疫は感染の収束する必要条件ではないので、現実にR<1になれば緊急事態宣言を解除してもかまわない。日本は実質的に集団免疫を実現しているので、緊急事態宣言は解除してもいいのだ。
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