コロナ起源説の混乱は中国を利する

人類の歴史で戦争といがみ合いは今日まで絶えたことがなかった。なぜ人類は互いに戦い、傷つけあうのかで、これまでさまざまな説が出てきた。代表的な説は、弱肉強食の生存原理に基づき人類はあたかも宿命のように戦争、競争を繰返してきたという「進化論的学説」と、人類の始祖アダムとエバが神の戒めを破り禁じられた果実を食べた結果、罪が発生したというキリスト教の「原罪説」だ。

▲「中国科学院武漢ウイルス研究所」の写真(同研究所の公式サイトから)

ところで、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの起源説でも同じようにさまざまな説が流れている。そして情報の混乱、錯乱は新型コロナの発生地として真っ先に疑われてきた中国共産党政権を利する結果となっている。フェイクニュースが流れ、起源説に関する情報でカオス状況が続けば、中国共産党政権の狙い通りになって、真相解明は迷宮入りになるからだ。そこで新型コロナウイルス起源説について、可能な限り整理してみたい。

新型コロナウイルスの最初の発生地は武漢市だった。この点では欧米諸国と中国は一致している。問題はそのウイルスはどこから由来するかの出自問題だ。代表的な説は、武漢市の海鮮市場から流出したという「市場説」だ。それに対し、米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージランドの英語圏情報機関同盟(ファイブ・アイズ)は武漢市郊外にある「武漢ウイルス研究所流出説」を考えている。

米国は武漢市で発生した新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び、中国共産党政権が武漢近郊の「中国科学院武漢ウイルス研究所」で人工的に製造、それが管理の落ち度から外部に流出したと考えてきた。中国共産党政権がウイルス流出の事実を隠蔽したため、初期対応が遅れ、中国を含む世界各地で大感染(パンデミック)となったという主張だ。感染者数、死者数で世界最大の感染地となった米国では、トランプ大統領らは後者を主張し、感染で生じた莫大な経済的損失の賠償請求を要求する動きすら出てきている。

それに対し、中国側は米軍がウイルスを中国に持ちこみ、感染を広げることで中国の国際的威信を傷つける狙いがあったという「米国陰謀説」を即製する一方、親中派の世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長を動員し、中国批判を強める米国に「新型コロナ危機を政治化すべきではない」と警告している有様だ。

米国の「武漢ウイルス研究所起源説」の弱点は決定的な証拠がないことだ。ポンペオ米国務長官は6日の記者会見で、新型コロナウイルスの発生源について、従来の「武漢ウイルス研究所発生源説」を繰返したが、「確信があるわけではない」とその発言のトーンを落としている。同長官が武漢市ウイルス研究所説を断言できないのは、限りなく状況証拠はあるが、決定打となる証拠がないからだ。同長官は、「中国が新型コロナのサンプル提供や研究所への立ち入りなどを認めていないからだ」と説明している。

米保守派メディア「ワシントンタイムズ」がいち早く、新型コロナウイルスの発生源が武漢市から30キロ離れたところにある「中国科学院武漢ウイルス研究所」の可能性があると報じて以来、世界のウイルス専門家が新型コロナウイルスを検証してきた。欧州に住む中国人ウイルス専門家、董宇紅氏は「新型コロナウイルスがこれまでのコロナウイルスとは違うゲノン配列をし、自然界にない人工的痕跡がある」と指摘し、「ラボ・イベント」(人為的にウイルスを改造する実験室)で人工的に作り出された可能性があると報じて注目された(「新型肺炎は“ラボ・イベント”から」2020年2月15日参考)。

それでは誰がウイルスの遺伝子を操作し、自然界では存在しない感染力と致死力を有する新型コロナウイルスを生み出したかだ。1人の専門家が単独で行ったというより、上からの関与がなければできない。だから「武漢ウイルス研究所」、それを管理する中国人民解放軍、そして中国共産党政権という繋がりが浮かび上がるわけだ。

ただし、ここにきて米国では、「研究所で人工的に製造されたのではなく、何らかの事故で研究所からウイルスが流出した」という事故説(ミリー米軍統合参謀本部議長)が強まっている。

中国国内の新型コロナ感染を想起すれば、事故説がここにきて説得力を帯びてきている。中国共産党政権は新型コロナウイルスが人から人へ感染するという事実を昨年12月末の段階で知っていたが、今年1月20日までその事実を隠蔽し、同月23日に武漢市をロックダウン(都市封鎖)する一方、世界から欧米製マスクを買い占めている。中国共産党政権の反応は想定外のことが発生したことを強く示唆しているのだ。

興味深いニュースは、世界の注目を集めている「中国科学院武漢ウイルス研究所」(1956年設立)の付属施設「P4実験室」(武漢P4ラボ)がフランスの専門家たちの協力を受けて建設されたという事実だ。海外中国メディア「大紀元」が4日付で報じている。

武漢P4ラボの建設は2015年1月に完成し、18年1月から操業を始めた。「フランスの技術を導入して建設されたが、実験室の運営を支えるための技術者の養成や共同研究プログラムが中国側のフランス排除によって計画通りに進まず、中途半端な形で終わった」という。

同建設プロジェクトはフランス側のイニシャティブから始まったが、フランス国内で「外務省、国防省、ウイルス専門家たちから中国の不透明性や安全問題に危惧する声が出てきた」という。しかし、フランスは当時、中国との間で放射性廃棄物処理センターやエアバス航空機の売買契約などの共同事業を推進していたから、計画を中断できないという台所事情を抱えていた。最終的には、「高い信頼性と技術力を持つ仏専門企業15社が集結し、世界最高レベルでの技術力を提供していった」という。

ちなみに、武漢発新型ウイルスは短期間で欧州を席巻し、多くの犠牲者を出しているが、イタリア、スペイン、フランス、そしてイギリスで特に感染が急速に拡大していった背景には、その国と中国間の経済的つながりがあることを無視できない(「『武漢肺炎』と独伊『感染自治体』の関係」2020年3月20日参考)。例えば、イギリスで今、米国に次ぐ死者が出ているが、ボリス・ジョンソン首相は親中派であり、首相の親族関係者には中国と経済関係を結んでいる人がいる。英国の感染拡大にはイタリアやスペインと同様、中国との経済関係の深さが浮かび上がってくるわけだ。

最後に、新型コロナの起源について、きわめて私的な意見を述べておく。キリスト教文化圏に属する欧米諸国は過去、アフリカ、アジアや南米で植民地政策を実施し、人と富と資源を略奪していった歴史がある。そしてアジアに中国共産党政権が台頭し、世界第2の経済大国にのし上がってきた。中国側は巨大な資金力で欧米企業を積極的に誘致。欧米諸国は続々と安い労働力、購買力を求めて中国市場に進出していった。欧米諸国は中国共産党政権がちらつかせる“パンの誘惑”に負けて中国共産党との経済関係を深めていった。その中国で新型コロナウイルスが発生すると、「中国ウイルス」は欧米諸国にも飛び火し、猛威を発揮し、多くの犠牲者が出ているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。