コロナ禍で少数民族系の「高致死率」

長谷川 良

バチカンニュース独語版(5月8日)を読んでいると、中国武漢市から発生した新型コロナウイルスの感染者で死亡する患者は米国や英国では少数民族出身の住民が多数派民族より格段に多いという。特に、黒人とアジア系住民、シンティ・ロマ人、遊牧民系にその傾向が見られるという。英国のマット・ハンコック保健相が記者会見で公表しているものだ。

▲「ウイグル人強制収容所」(日本ウイグル協会公式サイトから)強制収容所で新型コロナ感染が広がった場合、どうなるかが懸念される

英統計局の調査によると、「ある特定の社会的背景のある患者が感染した場合、その致死率は高い」という、具体的には黒人は白人より4倍以上、アジア系の場合も欧州人より致死率は高いという結果が報告されている。

英国カトリック教会司教会議で移民政策を担当するポール・マカリーナン司教は英国政府の統計を裏付けながら、「政府は貧困者問題、発展途上地域の問題に緊急に取り組まなければならない。新型コロナは少数民族系住民が多い貧困エリアに感染が広がるリスクが高いからだ」と述べている。同時に、「新型コロナがもたらす健康問題は民族間の公平性という問題を浮かび上がらせている」と強調。すなわち、少数民族系住民に貧困者が多く、厚生関連の保護から外れているケースが多いために、新型コロナの感染にやられてしまう危険が高いというわけだ。

同司教は、「フランシスコ教皇は非寛容、差別の是正のために戦わなければならない。人間の生きる権利を含め、その尊厳や基本的権利を侵す問題と戦わなければならないと呼びかけてきた」と語った。

上記のニュースは深刻なテーマを含んでいることは間違いないが、新型コロナがもたらした問題というより、特に、小数民族系住民が多く住む英国や米国では久しく指摘されてきた問題だ。新型コロナは社会的、経済的問題をより鮮明に浮かび上がらせているだけだ。

中国湖北省武漢市で発生し、武漢市がロックダウン(都市封鎖)された当初、新型コロナの感染リスクについて中国側の統計が公表されたことがあった。中国保健省が当時公表した新型コロナウィルスの感染者、死者に対するデータ分析の結果によると、新型肺炎による致死率は年齢と性別に大きく影響を受けていることが判明。例えば、致死率は50歳を超えると高まってくることが分かる。最も死亡リスクが高いのは80歳以上の感染者だ。同時に、心臓関連疾患、糖尿病などの持病持ちの患者の致死率が高いことが判明している(「データが示す新型肺炎患者の特徴」2020年2月22日参考)。

中国の場合、新型コロナ感染リスクはあくまで年齢と基礎疾患との関連から分析されている一方、米国や英国の場合、高齢者や持病持ちの感染リスクが高い点で中国と大きな相違はないが、少数民族系住民の関連リスクが問題視されてきたわけだ。中国の場合は年齢と基礎疾患問題の関連がテーマとなるが、少数民族系住民の感染リスクは完全に無視されている。

米英両国のように中国でも少数派民族出身者の新型コロナ感染リスク、高致死率があるが、その事実は中国共産党政権によって隠蔽され、外部に流れてこない。ウイグル系やチベット系住民が多数住む自治州では十分な感染予防対策はなく、医療関連機材の不足などで新型コロナが広がっているという情報が海外中国メディアでは既に流れている。中国当局から様々な政治的、社会的、宗教的に迫害されている中国国内の少数民族系住民の現状はメディアに報道されないだけで、深刻な状況だという。

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ちなみに、このコラム欄で前日、当方が新型コロナ検査を受けたことを書いたが、温かいコメントを頂き恐縮している。その中で当方と同じようにウィーンに住んでいる読者がウィーン市保健関係者の対応の迅速さに感動し、「永住している私たちも安心した」というコメントを送って下さった。実感のこもった感想だ。アルプスの小国オーストリアの医療水準は高い。反難民、反移民や外国人排斥傾向は一部見られるが、医療システムでは外国人もオーストリア国民と同じ治療を受けることが出来る。米国で見られる社会階級による医療格差は皆無ではないが、あまり見られない。

当方は過去、がん治療、網膜剥離などの手術を地元ウィーンの病院で受けてきたので、生きた証人だと思っている。ウィーンに住む少数民族系住民、外国人の読者に安心して頂ければコラム書きにとって幸甚だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。