コロナ死亡率の100倍の差を説明できない専門家会議

池田 信夫

きのうの専門家会議は、またしても政府の緊急事態宣言一部解除を追認する「御前会議」だった。その中身に驚きはないが、尾身副座長の記者会見にはちょっと驚いた。日本のコロナ死亡率がヨーロッパの1/100になった原因について、彼はこう説明した。


BCG接種がコロナに有効だという臨床試験の結果がないのは事実だが、これを「エビデンスがない」というなら、彼のいう要因のエビデンスはあるのだろうか。

  • 医療制度が充実して医療崩壊が防げた:これは日本の重症患者が少ない原因ではなく、結果である。たとえば日本より医療が充実しているドイツでは、日本の50倍以上の重症患者が出たので医療は対応できなかった。
  • 初期のクラスター対策が有効だった:これも因果関係が逆だ。人海戦術で患者に聞き取り調査するクラスター追跡が有効なのは、日本の患者が少なかったからだ。たとえばイタリアのように毎日6000人以上の新規感染者が出たら、そんな調査はできない。
  • 国民の健康意識が高い:これは何もデータがない。

ここには専門家会議が主導してきた自粛の効果があげられていない。日本のゆるゆるの自粛が有効だとすれば、それよりはるかに厳格なロックダウンをやったヨーロッパで日本の100倍死んだことが説明できないからだ。要するに彼のあげた要因は、BCG仮説ほどの根拠もないのだ。

BCG接種と死亡率の相関は統計的に有意

では疫学的なエビデンスはどうだろうか。これについてはFacebookグループで世界のBCG仮説についての肯定・否定両方の情報を共有しているが、今のところ圧倒的多数の論文が肯定的だ。

たとえばMiyakawa et al.は多くの擬似相関要因(所得・平均年齢・検査数など)をコントロールした上で、BCG接種の効果は統計的に有意だという結論を出している。

上の図のようにコロナ感染率(左)でみても死亡率(右)でみても、BCG接種したか結核の多い国(赤と白)は、どちらもない国(緑)に比べて低く、その比率は接種期間に依存しない。BCGの効果は感染率にきくのか致死率にきくのかは未解決の問題だが、これだと感染率にきく結果、死亡率が低いことになる。

専門的な論文より、次のような図がわかりやすいだろう。これはG20諸国のコロナ死亡率(100万人あたり)を示したものだが、最上位のイタリア・アメリカ・カナダはBCG接種を義務化したことがない国、下位の日本・韓国・中国・インドは今も全国民に接種している国だ。

G20諸国のコロナ死亡率(札幌医科大学)

対数グラフなので差がわかりにくいが、イタリアの死者547人に対して、日本は5人である。ロックダウンしなかったブラジル(BCG接種国)が4月から増えてきたが、それでも61人で、ヨーロッパの2割以下だ。

この差を「国民の健康意識が高い」などという理由で説明するのは、それこそエビデンスなき政治的言説である。死者2人のインドが、日本より医療が充実して国民の健康意識が高いとは考えられない。

尾身氏がBCG仮説を否定したい理由はわかる。それを認めると、今まで専門家会議のやってきた防疫対策が否定されるからだ。

しかしBCG仮説の当否は別としても、日本人の自然免疫が強いことは十分考えられる。その効果は弱いが、非特異的に多くの感染症にきく。つまりほとんどの日本人は「弱い汎用ワクチン」を接種したようなもので、緊急事態宣言は必要なかった。

これは今後の防疫対策を考える上でも重要だ。今回は結果オーライだったが、今年の秋に第2波が来たらどうなるかはわからない。今回のような弱毒性なら大騒ぎする必要はないが、3月にヨーロッパから入ってきたような強毒性なら水際対策が大事だ。

いずれにしても国内の接触削減には意味がなく、休業要請も莫大な経済的損失を出すだけだ。日本人は非常に恵まれた環境にあるので、それを生かした防疫対策を考えるべきだ。

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