金融機能の利用の裏に家計の必要性あり

豊かな老後生活をおくるためには、働いている期間を通じて、所得の一定割合を資産形成に回し、老後、働くことをやめてからは、形成された資産からの所得と、その定期的な取り崩しによって、公的年金給付を補完しなければならない。

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しかし、若い勤労層にとって、遠い将来の退職後の生活のために、現在の生活資金から、一定額を自主的に積み立てていくことは、高度な計画性と家計の規律が要求されることであって、理論的な想定としてはともかくとして、現実的な生活感情からいえば、極めて難しいことだと考えざるを得ない。

そもそも、そのような生き方は、あまりにもお利口さんすぎて、人としての自然な消費性向に反しているだろうし、社会の発展のための人間の活力の発現とは、相容れないものである。食事に喩えるならば、食事のおいしさや楽しさよりも、栄養価の計算を先行させるようなもので、むしろ、異常な生き方である。

現実的には、生活実感をもって現在を生きているなかで、遠い将来の老後生活よりも遥かに生活感の強い中短期的な目的について、資産形成の習慣と規律を学んでいく必要があるはずである。例えば、住宅購入のために住宅ローンの頭金を作るとか、車を買い替えようとか、旅行をしようとか、浴室を改築しようとか、そういう生活に密着した資金使途のために、家計の工夫が生まれてくるのである。

家計の工夫は家計規律を生む。実は、家計規律があるからこそ、金融機能の適切な利用が可能になるのである。住宅ローンの頭金を形成する過程でできた家計規律があるからこそ、住宅ローンの弁済が可能になるのであるし、家計規律のもとで歳を重ねるにつれて、どこかで老後生活資産形成の必要が理解されてくるのである。

住宅ローンにしても、投資信託等を使った資産形成にしても、金融機能というものは、その必要性が理解されない限り、適正には利用され得ないものである。そして、その必要性は常に生活のなかからしか生まれない。生活の必要性から乖離した金融機能は、全て顧客の真の利益に反するのである。

さて、現実の金融界において、顧客に提供にされている金融機能のうち、どれほどが真の家計の必要性に基づいているのだろうか。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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