中国湖北省武漢発の新型コロナウイルスの世界的大流行で欧米諸国では新型コロナの発生地、中国への批判の声が高まって来た。中国に対し「人類への犯罪」として賠償を求める声すら聞かれる。新型コロナの拡大で多くの感染者、死者を出した欧州の人々の中に中国フォビアの様相が見られるが、ここで注意しなければならない点がある。
批判しなければならない「中国」は新型コロナの感染初期の段階で人から人への感染の事実を隠蔽してきた「中国共産党政権」であり、「中国国民」ではないことだ。彼らの多くは新型コロナ感染の最初の被害者であり、これまでも様々な形で迫害を受けてきたからだ。
このコラム欄でも数回書いたが、中国「国民」と「中国共産党政権」は全く別だということだ。街に歩く中国人を批判したり、誹謗中傷することは中国フォビアであり、許されない。米国で人種差別抗議デモが広がっているが、中国フォビアに対しても黙認してはならない。
ところで、中国本土でも共産党政権への批判の声が高まってきているという。天安門事件から31周年となった4日、サッカーの元中国代表、郝海東氏はインターネット上で、「中国共産党を滅ぼそう」と呼びかけたという。海外中国メディア「大紀元」が5日、大きく報じていた。
郝氏は、「中国共産党の殲滅は正義のためである。中国共産党は、コミンテルンの資金支援を受けて中国で合法的な政府を転覆させたテロ組織だ。中国での全体主義的統治は、反人類の暴挙となった」と述べ、非難したという。中国共産党政権は黙っていないだろう。同氏への圧力、いやがらせ、口封じなど強硬手段に出てくるはずだ。
中国共産党政権は先月28日、北京で開催された第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議で、反体制活動を厳しく取り締まる「国家安全法」を香港にも適応する方針を決めた。それに抗議する香港市民のデモが広がっている。中国共産党政権は政治では一党独裁を維持する一方、経済分野では資本主義の市場経済を利用し、世界の物資供給チェーンの大拠点となってきた。
欧米諸国は中国市場に進出し、製造拠点を移動し、経済関係を深めてきた。しかし、武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大で、中国での製造に不安を感じ出した西側企業が増えてきている。
ジグマ―ル・ガブリエル氏(当時独外相)は独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」構想に言及し、「民主主義、自由の精神とは一致しない。中国はグローバルなリーダーシップを発揮し、民族主義、保護主義の復活を刺激し、世界の秩序に大きな影響力を行使し、欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている」と主張し、「現代で中国だけが世界的、地政学的戦略を有している」と警告を発している。すなわち、中国が世界支配のビジョンに基づき様々な統一戦線を実施している世界で唯一の国だという事実だ(「『中国共産党』と『中国』は全く別だ!」2018年9月9日参考)。
「大紀元」は「中国共産党は長年『中国と中国共産党は同一の存在だ』と嘘、偽りを発信し続け、中国国民を欺き、全世界を騙してきた」と述べている。冷戦時代、旧ソ連共産党政権、旧東欧共産党政権を目撃してきた当方はその見解にまったく同感だ。中国共産党政権が行っている人権蹂躙、不法な臓器移植、反体制派への弾圧の責任は、一党独裁政治で国民を弾圧する中国共産党にある。中国共産党の蛮行の最大の犠牲者は中国国民だ。法輪功メンバーたちは中国共産党政権下で久しく迫害を受けている。ウイグル人も同様だ。
国際社会は中国の一党独裁制度に対し、機会ある毎に批判し、必要ならば制裁を課すべきだろう。同時に、国内外の中国反体制派活動家、知識人、学生たちを支援すべきだ。欧米社会が中国との経済関係を深めれば、中国共産党政権への批判はどうしても緩やかになってしまう。新型コロナのパンデミックで中国共産党政権の体質を知った国際社会は今こそ、共産政権の悪魔性を明確に知って、対中関係を見直すべきだ。
中国は長い歴史を誇り、世界最大の人口大国だ。同時に、米国やロシアに次ぐ軍事大国でもある。それ故に、中国への対策は決して簡単ではない。韓国のように、中国からの反発を恐れて対立を避けようとする国も出てくるだろう。中国共産党政権は国際社会の反中ブロックを突破するために必ずや様々な分断政策を駆使してくるはずだ。
中国発「武漢ウイルス」に対しては治療薬、ワクチンが出来れば一応山場を越えるが、その背後で暗躍する中国共産党政権との戦いは「第二次世界大戦後、人類が直面している最大の挑戦」であることを肝に銘じるべきだろう。中国「国民」を愛し、中国「文化」を尊重する一方、それらをことごとく破壊する中国共産党政権に対しては明確に“ノー”と言うべき時を迎えている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。