TBSラジオ「久米宏ラジオなんですけど」終了に寄せて

番組ホームページより

TBSラジオ「久米宏ラジオなんですけど」が6月いっぱいで終了するという。実に残念である。一方、その事情については若干の疑問が残る。

本人に対して失礼かもしれないが、私にとっては「久米宏のTVスクランブル」での久米宏さんがもっとも好きだった。実は彼の「代表作」の一つと言われる「ニュースステーション」は、ほぼ見ていなかったのだ。「ザ・ベストテン」も「料理天国」もよく見ていたものの、別に彼を目当てに見ているわけではなかったのだ。

「久米宏のTVスクランブル」を見ていたのは、小学校の低学年の頃だったと思うが「面白まじめ」な大人というか、社会問題に対して、ふざけつつも斬り込む芸風だったと記憶している。知的な面白さがあった。「いいな、こういうの」と思った原体験であり。

中学生時代に出会った別冊宝島シリーズ、岩波新書同様、私の芸風に影響を与えている。「あぁ、こんな大人になれたらいいな」と思った原体験だった。

「久米宏ラジオなんですけど」には二度、出演したことがある。正直、声などに年齢や衰えを感じたのは事実ではあるが、とはいえ、久米宏さんは、私が夢中になって見ていた「久米宏のTVスクランブル」での彼そのもので。

専門家として、真面目に答えようと思っていたのだが、彼はナイスなバッティングピッチャーのような、あるいは、ピッチャーの人間の限界を超えた能力を引き出すキャッチャーや監督のような存在で。彼の前では、どんどん悪ノリさせられてしまう。結果として、出演した過去2回は暴言すれすれの過激発言を引き出されてしまったし。SNSもざわついたのを覚えている。

「この国は、暴力団を描いた映画なみに、人の命を安く扱っていないか」と私が発言した際に「この番組は、暴力団の皆さんも聴いていると思うのですけど、いいんですか?」と返され、舌を巻き。彼にのせられて思わず「国民、皆殺し状態ですよ」と発言したあと、私が「皆殺しって放送で言ってはいけないのですよね?」とあたふたしたら「発言したあとで言わないでくださいよ」と返され。大人の話芸だった。

さて、番組が終わるわけなのだけど。このニュースで報じられているとおり、彼の衰えを感じる瞬間は正直あった。だから、今のうちにという彼の意向もよく分かる。ただ終了する理由について「複数ある」と答えている点がやや気になっており。TBSラジオでは昨年の春に長寿番組「荒川強啓 デイ・キャッチ!」が終了しており。政権批判をする番組だから終わったのではないかという疑惑を残した。この番組が終わる頃に私は電話ゲストで出演し「なんで、やめるんですか。政権の説明責任を批判している場合じゃない。説明してほしい」と噛み付いたが。

久米宏さんのこの番組も、面白おかしく政権批判をする番組であり。無念である。こういう邪推はよくないのだが、何らかの事情があったのではないかと思ってしまう。

いずれにせよ、あと数回で番組は終了だ。残念だ。久米宏さんの冠番組はこれでいったん消滅とのことだが、彼から学べることを学びつくくしたい。感謝。

荻上チキさんは2016年にギャラクシー賞を受賞した際に「ラジオは最前線のメディアであり、最終防衛ラインのメディアでもある」と発言した。久米宏さんの番組は終わってしまうが、ラジオというメディアはそうあってほしいと願っている。この番組終了が、最終防衛ラインの崩壊につながらないことを祈っている。


編集部より:この記事は千葉商科大学准教授、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2020年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。