マイナンバーを活用して現金給付を迅速化するために、マイナンバーと口座番号を紐づけする法案を与党が取りまとめた。この法案は、口座の中身(資金移動の詳細)を政府が取得するのを目的とするものではないのだが、あたかもそのように捉え、危惧する意見をオールドメディアが表明している。
毎日新聞は5月30日の社説で「資産把握やプライバシー保護との兼ね合いから十分に議論を重ねる必要がある」と主張したのに続き、朝日新聞は6月4日の社説で次のように書いた。
全口座を政府が把握する仕組みの導入は、過去に何度も議論されたが、プライバシーが侵されるのではないかという国民の根強い不安から、頓挫してきた。コロナ禍に乗じるようなやり方は許されない。
今回の給付金処理でオンライン申請が役立たなかった理由は、マイナンバーが「個人」を対象とした制度であり、「世帯構成」を記録している住民基本台帳との照合を人間が行わないと、申請情報の真偽が判定できなかったからだ。この辺りは、四条畷市長の説明に詳しい。
政府も地方公共団体も法律に認められている範囲でしかマイナンバーを利用しない。法律を超えて照合したほうがスムーズだとしても、そうは動かないのが今の行政である。
給付金の支給のために今回取得した口座情報は、次の緊急時に利用するようには想定されていない。次の緊急時にも利用したほうがスムーズなのは自明だが、個人情報保護法には事前同意の原則があるから、行政は個人情報保護法に従って取得済みの口座情報を利用しない。
行政は意図的に法律に違反することはない、保守的に法律を解釈する組織である。それが無駄な行政事務に結びつく。口座情報の再提出問題を解決するために提案されるのが今回の法案である。
毎日新聞も朝日新聞もこのことは知っているはずだ。しかし、行政には信頼がないと批判し、資金移動の詳細まで政府に把握されるかのような意見を表明する。
5月30日の毎日新聞社説のタイトルは「マイナンバーカード なぜ役立たないか猛省を」だった。社説の最後には「信用がないまま、国民に利用を押しつけてはならない。」と書かれている。過去にも、2015年3月31日や同年10月4日に、行政への信頼を問題視する社説を掲げてきた
6月4日の朝日新聞社説のタイトルは「マイナンバー 性急な議論は危うい」。最後には次のように書かれている。
マイナンバーは、税制や社会保障を支えるツールとなりうる制度である。しかしその前提として、一人一人の情報を管理する政府が、国民に信頼されていなければならない。その条件は整っているのか。制度の手直しを考えるのであれば、まずはそのことを問い直すべきだ。
2013年05月26日の社説にも「様々なリスクがあるなかで、共通番号の利点を最大限に引き出すには行政への信頼感が欠かせない」と書いてあった。
繰り返すが、保守的に法律を解釈する今の行政組織のどこが信頼できないのだろうか。行政への信頼という言葉を繰り返して、行政改革・電子行政化の足を引っ張ってきたメディアが、どうして信頼できるのだろうか。