コロナの影響で「ニューノーマル」という新世界、新行動規範が生まれることにより、既存の体制から変質化できない会社が自主廃業や倒産を経て、企業再編が起きるのではないかとみる専門家が多いようです。私もそう思っています。今後、どうなっていくのか、その展開を考えてみたいと思います。
日経ビジネスの最新号のメインテーマは「コロナ大再編、レナウンの次」であります。そのレナウンは15日に終値4円で上場廃止となりました。企業の死を数字で見ていると悲しいものがあります。ただ、私が注目したのは同じ日経ビジネス最新号にあるサッポロ ホールディングス社長への編集長インタビューであります。
サッポロビールといえば近年は大手4社では最下位が指定席となっていますが、その原因を作ったのは94年に恵比寿のサッポロビール工場跡地開発が完成し、不動産会社化が確立した体制にあると考えています。これで同社は不動産事業主力が明白となり、ビールがおまけでついてくる体制になってしまいました。「サッポロビル」と揶揄されるわけです。その体制をご丁寧に持ち株会社にしてしまったところにもう一つ間違いがあったと思います。別途独立させ、ビールと距離を置くべきだったと思います。
そのホールディングスの尾賀真城社長は「ビールの時代が再来する」と述べています。理由は税制の見直しでサッポロが有利になるからというもの。記事の読み手の私からすると答えになっておらず、夢物語となっています。更に編集長が「日本に大手が4社あるのは多過ぎはしませんか」に対して「集約しようという人は多いのかもしれませんけど、それは2つ、3つにするんですか、4つあっちゃいけないんですかというと、やっぱり4つの違いって、それぞれにあるような気がする」とのお答えです。この回答は強烈でどこかの政党の方の話を思い出してしまいますが、こんな士気では社長は務まらないです。
同誌の「コロナ大再編」の特集で「もう生き永らえない ゾンビ企業、コロナショックで退場へ」とあります。私にはサッポロビールはゾンビに見えるのです。別にあってもなくても誰も困らず、なくなって惜しいと思われないのです。レナウンがスポンサーを探しています。確か、1カ月程度で見つけてくると民事再生の申請の際、インタビューで述べていたと思います。業界の人は同社に投資したくなるブランドがないといいます。つまり、その会社しかない個性や強みがなければ忘却の彼方となるのです。
日本の大企業が世界で羽ばたけなくなった理由の一つに長引く低金利があります。しかも大企業ほど有利な条件で借り入れできるという背景こそが日本企業をダメにしたとみています。日本は倒産を嫌います。理由は従業員の食い扶持、それと貸し手である銀行の都合です。しかし、ほとんどタダのようなお金を銀行から借りてそれでも成長できないならそれは競争力が全くなかったわけでコロナでようやく背中を押してくれたと考えるべきなのです。
「甘えの構造」(土居健郎著)は1971年発刊の日本人論の名著の一つですが、今の日本の社会はまさに体裁を繕う銀行と企業の「甘えあい」の関係にあるのです。「金利低くするから持ちこたえてね」なんです。一方、「いきなりステーキ」のペッパーフードが仕入れ先の社長個人から20億円借りたことが話題になっています。銀行が甘えさせなかったのは新興の成り上がり企業に雨が降ってきたから傘を奪い返したというところでしょう。池井戸潤氏の小説のようなものです。
つまり、日本の金融業界は付き合いの長さを信用という尺度にする傾向があります。付き合いが長くなるほど審査が甘くなる傾向があるのは失敗しても資本の厚みがあるからカバーできるだろうという資金回収の担保だけを考えているからでしょう。金利は低いけれど保守的という経営姿勢は普通預金に1億円預けているようなものなのです。
私はかねてから日本の大企業病を指摘してきました。しかし、低金利と金融機関とのもたれあいの関係は真綿で首を締めるものなのに気がついていない会社だらけであります。レナウンの次がどこかはわかりませんが、私にはこれは序章にしか思えないのです。世界の中で生き残るためにニッポン株式会社の構造的変革が果たしてできるのでしょうか?心配でなりません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月16日の記事より転載させていただきました。