理不尽な韓国のWTO提訴、2品目の輸入は対前年でむしろ増えている

高橋 克己

WTO本部(WTO公式サイトより)

6月19日の韓国各紙(日本語版)は、駐ジュネーブ韓国代表部が前日18日、WTO事務局と日本の同代表部に対し、日本が昨年7月に半導体関連材料の輸出管理を強化したことなどに関するパネル(小委員会)の設置要請賞を発送したことを報じた。

その日の中央日報、「韓国政府は日本の輸出規制措置が、関税および貿易に関する一般協定(GATT)等のWTO協定に反しているという立場だ。実際、GATT第11条第1項にはWTO加盟国は輸出禁止、または数量制限の措置を取ることはできないとされている」などと報じた。(太字は筆者)

一国が意思を以ってすることだから、傍からとやかく言うべきでないと筆者は思っていた。が、6月29日の中央日報の記事2本を読み、つい、よせば良いのにと溜息が出た。やはりこの国は支離滅裂で理不尽で普通でないなあ、と改めて実感せざるを得ない。

というのも、29日17時前の日本相手の素材・部品・装備国産化、半分成功…日本と協力すべきとの指摘も」という見出しの記事に、筆者がこの一年間ずっと知りたかった数字が載っていたからだ。それは日本が管理強化した3品目の輸入実績。記事を引用する。

フッ化水素は1~5月の対日輸入額は403万ドルで、前年同期の2843万ドルから85.8%減った。日本製の輸入の割合も大きく減った。日本製フッ化水素の輸入割合は昨年43.9%を記録したが今年は12.3%に減った。

これに対しフォトレジストは昨年1~5月の対日輸入額が1億1272万ドルを記録したが、今年1~5月は1億5081万ドルとむしろ増えた。1年で33.8%の増加だ。だがフォトレジストの日本製の輸入の割合は昨年の91.9%から今年は88.6%と小幅に縮小した。

フッ化ポリイミドは大きな変化がなかった。フッ化ポリイミドは昨年1~5月に対日輸入額が1214万ドルを記録したが今年は1301万ドルで7.4%増えた。フッ化ポリイミドの輸入のうち日本製の割合は昨年と今年とも93.7%で差がなかった。

読んでもピンとこないので表にしてみた。

(単位:万ドル)

年度 2020年1-5月  2019年1-5月
品目 輸入総額 日本以外 日本 輸入総額 日本以外 日本
フッ化水素 3,276 2,873 403 6,476 3,633 2,843
フォトレジスト 17,021 1,940 15,081 12,266 994 11,272
フッ化ポリイミド 1,388 87 1,301 1,296 82 1,214

なんと、フッ化水素こそ減っているもののフォトレジストとフッ化ポリイミドはむしろ増えているではないか。記事は大学教授の、「フッ化水素は国産化が進んだ」としつつも総需要量や半導体の需要動向には触れず、他の2品目の増加も「品目により差があった」との甚だ不明確な談話を載せる。

だが、明確なことがある。それは韓国がいうような「輸出規制」の事実がないことだ。ましてGATT第11条にいう「輸出禁止」や「数量制限」など毫もない。やはり日本がいうように「管理強化」が正しかろう。だのに、10日前のWTO提訴はそのまま。一体どういう神経か。

青瓦台Facebook

この記事の小一時間後、中央日報は文大統領が「日本の輸出規制が韓国経済に直撃弾になるという見通しは当たらなかった」とする記事*も報じた。この日、文大統領が青瓦台で開いた会議冒頭で次のように述べたというのだ。

日本が輸出規制を断行してから1年間に、韓国は奇襲的措置に揺らがず正面から突破し、禍転じて福となす契機を作った。主力産業である半導体とディスプレーを狙った日本の措置が韓国経済に直撃弾になるという否定的な見通しは当たらなかった

ただ1件の生産支障もなく、素材・部品・装備の国産化を繰り上げるなど成果を作った。だれも揺さぶることはできない強い経済へ進む道を開いた

これを読んで、筆者は正気を失いそうになった。「日本の措置が韓国経済に直撃弾になるという否定的な見通しは当たらなかった」うえ、「ただ1件の生産支障もなく」済んだのは、(一部は国産化したかも知れぬが)日本から輸入し続けられたからではないのか。

普通の国の為政者なら、それでなくとも与党の議員になった正義連代表の所業が明るみに出、北朝鮮には散々罵倒され、加えてボルトンに情けないところを暴露されたこの時期に、きっと惨めな結果に終わるWTO提訴など思い止まりそうなもの。

だが「反日」しか支持を上げる手段を持たぬ青瓦台、こういう時だからこそ敢然と進めるのだろうか。韓国のメディアもメディアで、この3品目の輸入実績の報道は中央日報以外に見当たらない(29日時点)。輸入できているのだからやめておけ、と諫める記事がないこと以前の問題だ。

29日に行われたWTOの協議では、日本が拒否してパネルは設置されなかった。しかし規定では7月29日に予定される次回協議に再上程された場合、日本は再度の拒否ができず、他国が全会一致で拒否しない限りはパネルが設置される。

韓国は「禁止」も「数量制限」ないことを知っていながら何を理由に提訴するのか、何とも理不尽だ。もし次回協議で、この無理が通って道理が引っ込むようなら、日本は米国を誘っていっそWTOから脱退してはどうか。