日本にも「テスラ」は出現するのか?

テスラがトヨタの時価総額を抜いて自動車業界でNO1となりました。出荷台数はトヨタの30分の1だというのになぜ、投資家はテスラにそこまで高い期待を持っているのでしょうか?

(テスラジャパンHPから:編集部)

日本で電気自動車は三菱のi-MiEVが2009年に、そしてその1年半後には鳴り物入りで日産リーフが登場し、量産型の普及という点では世界最先端を走っていました。当時、ゴーン社長は電気自動車の時代が来ると鼻息が荒かったのですが、思ったほど売れず、現在に至ります。その後、様々なメーカーが電気自動車を販売するようになりましたが、テスラ以外では中国の北京汽車など一部を除き開花したブランドはありません。

なぜ、テスラが伸び、既存の自動車メーカーの電気自動車が評価されないのか、それこそ様々な見方があると思います。私は自動車の専門家ではないので経営姿勢という点から見たいと思いますが、テスラには向かうべき方向性が明白にあった、ということではないかと思うのです。そしてファン層をしっかりつかんだとしたらどうでしょうか?私はテスラというよりイーロン マスク氏の方が先に頭に浮かぶぐらい明白なビジョンの印象を強く感じるのです。

一方、既存自動車メーカーの扱いはラインアップの中の一つで電気自動車にしろ水素自動車にしろ中途半端にしてしまったような気がします。やや厳しい言い方をすれば会社全体の傘下の一部門に過ぎず、必死さがなかったように感じます。

日産自動車の再建に内田誠社長の手腕が問われています。今後18カ月で12モデルの新車を投入するというのが内田社長の戦略の枠組みの一つですが、成功しないような気がしてならないのです。なぜか、といえば日産の売りがどこにあるのか、明白な路線が打ち出されていないのです。数年前に北米の日産のラインアップがSUVばかりで訳が分からなくなっていると指摘させて頂きました。

SUVがブームだとそれを投入し、E-Powerがよいとなればそれを投入するという目先の流行で経営をしているような気がするのです。今回の12車種も多くがSUVです。こんなに種類が必要なのか、と思うのです。

ルノーと日産、三菱自動車では世界地図の中で戦略エリアが分かれています。確かにエリアで分けるのもありなのでしょうが、その3社で持つ企業イメージはそれぞれ別だと思うのです。ならばそのイメージに沿ったクルマづくりに絞りながら共同戦線を張った方がいいように思います。正直、日産はSUVばかりを作るけれど三菱の方がSUVのイメージは強いのです。そこの連携がうまく機能していないのではないでしょうか?

フォルックスワーゲンが「ソフトウェアの会社になる」と言ったのは1年以上前でしょうか?トヨタは街づくりに向かっています。20年後の市場を見たとき、圧倒的強みをもって市場を制覇することが求められます。

今日は自動車業界の話を背景に経営の在り方を考えていますが、これはどんな業種でも同じだと思うのです。そして今後は経営環境の変化に対応すべく、工場などへの大規模投資を伴う資産を抱え込むスタイルからよりライトな経営に変えられないものかと思うのです。

カナダにマグナ インターナショナルという巨大な自動車部品メーカーがありますが、彼らは実質的には完成車を作る能力があるとされます。ならば自動車メーカーが自社工場に固執するのではなく、彼らに作ってもらうという発想もアリではないかと思うのです。それこそアップルの製品と同じです。アップルには工場がないのです。そして自動車会社としてのあるべき方向性をもっと見定め、次世代のビジネスにつなげていくのです。

日本に「テスラ」は出現するのか、と言われるとなかなか厳しいだろうと思います。技術がブラックボックス化しているし、それ以上に情報開示を極めて拒み、M&Aもなかなかうまくいかない体質が日本企業にはあるからです。しかし、伝説に残るような経営者は既存の枠組みにとらわれない強みがあります。学ぶべきところは大きいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月8日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。