打撃ではなく活力を与えている
東京都知事選は大方の予想通り、現職の小池百合子氏の圧勝で終わった。予想された結果だったためか世論の関心はもうほとんどなくなっているが、リベラル界隈では「ある候補者」の得票数が話題になっている。「ある候補者」とは日本第一党党首の桜井誠氏であり、氏は前回よりも得票数を増やし18万票近くを獲得した。
桜井氏は2000年代後半から在日コリアンへの過激な言動が注目(批判)され日本社会にヘイトスピーチという言葉を定着させた人物である。
氏の活動も長期にわたり率いる政治勢力も「会」から「党」となりしわずか1名とはいえ地方議員を誕生させるなど政治勢力としてゆっくりではあるが確実に「成長」しており、今回の都知事選もその結果である。
この「成長」を例えばジャーナリストの津田大介氏は警戒しているが、違和感は大きい。
というのも津田大介氏は昨年開催された愛知トリエンナーレの「表現の不自由展・その後」に芸術監督として「昭和天皇の肖像写真を焼却する」という作品を選出し、ヘイトの定義を混乱させた人物だからだ。
そしてこの津田氏の軽率な判断により日本第一党は勢いづき「対抗展示」として「あいちトリカエナハーレ」を開催したほどである。津田氏は日本第一党に打撃ではなく活力を与えたのである。
この津田氏の例をみてもわかるように日本第一党の成長要因として「軽薄な批判者」の存在が挙げられる。
在日コリアンとLGBTへのヘイトスピーチを批判しつつ、舌の根の乾かぬ内に昭和天皇の肖像写真の焼却を「表現の自由」として肯定するような者は日本第一党にとって活力、燃料にしかならない。
本当に日本第一党の成長が問題だというならば平然とダブルスタンダードを使う「軽薄な批判者」の主張は聞くべきではない。
既成政党の怠慢の結果
「軽薄な批判者」の存在が日本第一党を成長させているわけだが、もちろん要因はこれだけではない。素朴単純に日々増加しつつある在日外国人への漠然とした不安もある。少子高齢化・人口減少の進展により、外国人の受入れは必須だがその内容について国民的合意が成立しているとは言い難い。
自民党はやはり「財界の都合」を優先している印象が強いし、立憲民主党や日本共産党にいたっては日本人より在日外国人の方に関心があるのではないかと錯覚するほどである。今後、この日本で日本人が少数派となる地域が増えていくのは確実であり、たとえ日本人が多数派の地域でもその内訳が高齢者ばかりならば外国人、特に「外国人の若者」と対等に渡り合うのは難しいだろう。
地味な話ではあるがアジア系はともかく非アジア系(黒人・白人)はやはり体格がよい。「体格の良い若者」は知り合いを除けば同じ日本人でも結構、威圧感を受けるものではないだろうか。誰でも路上や公園で「体格の良い若者」の集団を避けようとしたことは一度や二度あるのではないか。
他にも「自己主張」の解釈も日本人(特に高齢者)と外国人とでは相当に差があると思われ、これが無用な緊張を生む。
既成政党はこうした日本人生活者の視点で外国人政策を論じていない。
だから日本第一党の成長は既成政党の怠慢の結果でもあり、同党の差別主義・排外主義の面ばかりみてもその成長は阻止できず逆に利用されるだけだろう。
「外国人の政治活動」が日本第一党を成長させる
よく知られているように桜井誠氏は在日コリアンへの過激な批判者として活動家人生をスタートさせた。今回の都知事選では特定の国籍・人種を想起させる表現は抑えていたが氏の最大の関心はやはり在日コリアンである。
もっとも在日コリアンの人口減と高齢化は止まる要素が全くない。人口減と高齢化の進展は「衰退」に他ならないが桜井氏にとってこの二つは「衰退」を意味しない。氏にとって在日コリアンの人口減と高齢化は重要な問題ではない。
桜井氏にとって重要なのは在日コリアンが地方参政権や朝鮮学校の授業料無償化の要求運動をしたり生活保護を受給することであり、要するに「在日コリアンが何をしているか」である。
これは他の在日外国人に対しても同様であり、そこに人種的偏見は含意されているが桜井氏が強調するのはあくまで表面の「在日外国人が何をしているか」であり、それが18万人近くに支持されたのである。
そして「在日外国人が何をしているか」の主張の裏側には「在日外国人は何をしてはいけないのか」や「在日外国人は何が禁止されているのか」がある。この裏側は様々な意味を含んでいるが、そこには間違いなく「外国人の政治活動」も含まれる。
日本社会は「外国人の政治活動」について議論を避け曖昧なまま放置しており、それが一部有権者に不安を与え日本第一党支持に向かわせているのである。
逆に言えば勇気を出して「外国人の政治活動」について議論し「規制」を含む国民的合意が成立すれば日本第一党の存在意義は失われる。
だから日本第一党の成長を阻止したければ「ヘイトスピーチ規制」ではなく「外国人の政治活動」について議論を深めるべきであり、これを避けている限り日本第一党は成長し続けるだろう。