ブルックス・ブラザーズの破綻の根源はコロナでもDXでもない

内藤 忍

世界最古の紳士服販売店とされるアメリカの老舗ブランド「ブルックス・ブラザーズ」が経営破たんしました。DX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り遅れ、コロナショックによって経営が追い込まれたと日本経済新聞が報じています。

ブルックス・ブラザーズは20代から30代の頃は、憧れのブランドでした。日本では表参道にあるブルックスブラザーズとポースチュアートが、トラディショナルファッションの双璧で、お店に入る時は緊張したものです。

しかし、これらのお店に行く機会は徐々に減って、ここ20年くらいは一度も足を運んだことがありません。買い物をするのは、いつしかエストネーション、ストラスブルゴといったセレクトショップや、ハイブランドの直営店に変わってしまいました。

ブルックス・ブラザーズは、トラッドファッションにこだわり過ぎ、世の中のファッションの変化についていくことができなくなり、ブランドイメージが徐々に低下していったと思います。

いつしか、アメリカの垢抜けない「おじさんファッション」というイメージになってしまったのです。以前はステイタスだったボタンダウンシャツも、ロゴが入ったポロシャツも、何だか格好悪く見えてくる。ファッションのトレンドというのは、恐ろしいものです。

コロナで売上が落ちたり、DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術による経営変革)の流れに乗り遅れたというのは事実かもしれませんが、破綻の主因ではありません。

ブルックス・ブラザーズは、トラッドファッションの老舗としての圧倒的な成功から、カジュアル化やファストファッションに向かう新しいファッションに対応することが出来なくなってしまったことに問題の本質があったのです。

演歌歌手が、売れなくなっても、ロックやヒップホップに活路を見い出そうとは思わないし、はじめても演歌歌手というイメージから、なかなか脱却できない。そんな風に考えると、わかりやすいと思います。

過去の成功体験から定着したイメージから抜け出すのは、企業でも個人でも難しいということを、ブルックス・ブラザーズ破たんに感じました。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。