JR東海と静岡県(知事)の話し合いがまとまらず、リニア新幹線の2027年の開業延期が避けられない事態となっています。
はたから見れば、ほとんど経済効果のない静岡県が嫌がらせをしているように映るかもしれませんし、話し合いの進め方に問題があることは事実でしょう。
ただ、こうした交渉面ばかり注目されますが、実は「リニア新幹線」にはもっと深刻な問題が山積しているのです。最近はマスコミの批判記事が少ない中、多くの国民はリニア新幹線建設について、何の疑いもなく当然のことと受け止めてはいないでしょうか?
一体何が深刻な問題なのか、以下私なりに整理してみます。
1 乗客の安全面の問題
緊急時の乗客の避難確保は重大な問題です。特に南アルプスを横断する区間は、地下千数百メートルにも及ぶ深さの所を、何十キロにも渡ってトンネルを通すわけです。仮にトンネルの中間点で車両が緊急停止した場合を想定しますと、数百~千人もの乗客を地上までどのように安全に移動させるのでしょうか?
身体に障碍を持つ方や高齢者へのサポート、長距離移動手段(徒歩では数キロ以上の距離は厳しいため、エレベータ—かエスカレーターか)の確保、停電時や厳寒期の対策、途中の避難施設・設備の確保、それらにかかる莫大な整備費用など一体どうするのか、心配の種は尽きません。
2 地体構造上の問題
日本は毎年のように地震、台風、豪雨による被害に見舞われる災害列島です。そんな国土においてリニア新幹線は、日本の二大断層である糸魚川―静岡構造線と中央構造線を突き抜けるルートなのですから、地震の揺れだけでなく地質構造の変化(ズレなどの動き)も心配されます。
また、岐阜県内ではウラン鉱床を通過する可能性も取りざたされています。
3 建設工事の安全性、環境破壊の問題
2とも関係しますが、かつて経験したことのない断層線を地中奥深くで横切るルートの建設はかなりの難工事が予想され、不測の事故等で犠牲者が出てしまうことも危惧されます。
また、南アルプス水系の水枯れの問題、諏訪湖とほぼ同じ容量になるという掘削によって生じる膨大な残土処理の問題もあります。
4 莫大な建設費用がペイ出来ない問題
一つは難工事が多いため、9兆円ともいわれる超巨額の建設費用が必要となることですが、それだけでなく開業後思ったほど収益があげられず、建設・整備費用の借金をペイできない可能性があることです。
建設費用で国が補助した分(現在では約3兆円)は財政に重くのしかかり、やがて増税という形で私たちに跳ね返るでしょうし、JR東海が投下した資本は割高な乗車料金に反映されることになるでしょう。
そして、一体どれだけの人々が割高なリニア新幹線を利用するのでしょうか? 東京ー名古屋間の乗車時間が40分に短縮されたとしても、駅(地下深く?)へのアクセスに時間がかかれば、企業間の移動は実質的に大した時間差ではなくなります。また途中には大都市がありませんから、東京・名古屋以外に、通勤や出張で毎日あるいは定期的に利用する乗客の増加は望めません(観光客は多少増えるかもしれませんが)。
さらに今後はテレワークが進み、人口も長期的に減少していきますから、むしろ利用客数は減っていく可能性すらあるのです。
なお、「リニア新幹線」をめぐる様々な問題については、少し前になりますがジャーナリスト樫田氏へのインタビュー記事に、わかりやすくまとめられています。
マスコミ最大のタブー「リニア中央新幹線」問題に迫る! 「陰の財界総理」こと葛西敬之・JR東海名誉会長の正体とは?~岩上安身によるインタビュー 第525回 ゲスト ジャーナリスト・樫田秀樹氏
さらに名古屋にとっては、次のようにもろ手を挙げて歓迎できない面もあるでしょう。
5 名古屋圏に思ったほどの経済効果が見られない可能性がある
過去の人の移動状況からみて、時間距離が短縮されれば大東京の「ストロー効果」が働き、日帰り出張が容易になった分名古屋に泊まるケースは減ります。また、祝休日には名古屋圏から東京への買い物にも気軽に出かけやすくなります。
そうなってしまえば、名古屋圏のホテル業界や小売・サービス業界は、経済効果どころか逆に衰退していくリスクがあるわけです。
これだけ問題が山積みなのに、最近はJR東海と静岡県の論戦ばかりが取りざたされ、特に大手マスコミが深刻な問題を指摘しない(触れない? )と感じます。
安全確保に問題があり、経済効果も限定的で、建設費用すらペイ出来ないことがわかっていながらリニア建設に突き進むのは、国民をそそのかして大金(税金等)をむしり取る国の「詐欺行為」と言えなくもありません。
政府は3兆円もの大金(さらに増える可能性は高い)をリニアにつぎ込むくらいなら、社会保障費(年金、生活保護、医療費等)、教育費、防災対策費、コロナ禍による就業支援など、もっとすぐにでも必要なところにお金を使うべきでしょう。
政府やJR東海が、「リニア新幹線」の初運行を全世界にアピールしたいのであれば、大平原の広がるヨーロッパやアメリカの国々から建設を受注し、実際に運航することで「日本の技術力」を誇示する方が、費用・安全性の面からみてもメリットのある戦略ではないでしょうか。