先ごろ友人との世間話が米大統領選に及んだ。「クオモが良いと思うがなあ」と友人が言い、「クオモは次を目指しているんじゃないか、今回、民主党は諦めてる」と筆者。だが、数日してバイデン認知症か?との報道が出たので、「8月までにバイデンが降りるかも」とLINEに送った。
友人からはすぐ「ならクオモか?」と返して来たので、私はこうたしなめた。
「クオモを良く知らないが、民主党はローズベルト、トルーマン、カーター、クリントン、オバマと容共で俺は嫌い。共和党は、若い頃のニクソン、レーガン、トランプと反共。今は中国に厳しいトランプを支持しなきゃ」
こんなセリフが咄嗟に出たのは、6月24日にオブライエン大統領補佐官が(米国の中国承認を)、「この誤算は1930年代からの米国外交政策の最大の失敗」と講演で述べたこと、そして筆者が「ヴェノナ」の原書を2015年に半年掛けて翻訳していたからだ(邦訳が出ているのを知らなかった)。
オブライエンは、このローズベルト以降の民主党の外交政策を指す発言の前に、「(中国承認)当時の米国は中国が経済的に発展するにつれて民主化し、自由を追求するだとうと考えたが、逆のことが起こった」とし、「中国はその共産主義イデオロギーにさらに一層慣れ親しんでいるだけ」と述べた(参照:Politico)。
1972年2月、ニクソンは訪中し、上海コミュニケを出した。前年7月に極秘訪中したキッシンジャー補佐官が、おそらく将来の中国民主化を示唆したのに乗せられてのことだった。72年9月に「バスに乗り遅れるな」と日本が国交回復したのを挟み、カーターは79年1月に中国を承認した。
72年当時、米国は長引くベトナム戦争で酷く疲弊していたし、中国も文化大革命の後遺症に苦しむ中、ソ連との国境問題を抱え、ソ連の覇権主義への対抗という共通課題があった。
だが爾来半世紀、中国は未だ共産主義を享受している。80年代前半に鄧小平との香港返還交渉のテーブルに就いたサッチャーも、返還後の中国が香港化すると考えていた。だが現状を見る限り、経済だけを改革開放した鄧小平に、してやられたと認めねばなるまい。
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友人に偉そうにいった手前、「アメリカを誤らせた民主党の60年」という副題の「リベラルたちの背信」(アン・コールター著 2004年 草思社)」を再読した。前半分は「マッカーシーの赤狩り」とそれを批判するマスメディアの記述、そして彼を擁護するための「ヴェノナ」引用だ。
当初「ヴェノナ」はトルーマンにも明かされず、公開はソ連崩壊後の95年。ケンブリッジファイブ(同大卒の5人のソ連スパイ。朝鮮戦争で連合国軍にいてソ連に情報を流した者もいた)のキム・フィルビーから存在を知らされたスターリンは、暗号解読を信じず、対応しなかった。ローズベルトがソ連スパイを野放しにしたのに似る。
50年前後にウィタカー・チェンバースやエリザベス・ベントレーやカナダのソ連大使館員グーゼンコら離反者の証言から、ローズベルト政権中枢のアルジャー・ヒス補佐官(ヤルタに同行)やデクスター・ホワイト財務次官(ハルノートをドラフト)、原爆スパイのローゼンタール夫妻らを告発したFBIも「ヴェノナ」を裁判で使わなかった。
そんな中、ただ一人チェンバース証言を信じ、ハーバード出のワスプに騙されずヒスの偽証を暴いたのが若きニクソン下院議員であり、他方、チェンバースやマッカーシーを変人扱いして叩き、民主党政権擁護に終始したのが、「ニューヨークタイムズ」(以下、タイムズ)や「ワシントンポスト」(以下、ポスト)やCBSなど三大ネットワークだった。
例えば「カボチャ文書事件」。チェンバースが、ヒスから預かって納屋に隠した極秘書類のマイクロフィルムを、非米活動委員会の調査員の前で、中をくり抜いたカボチャから取り出した。書類の活字はヒスのタイプライターと一致したが、ヒスは「彼がどうやって我が家に侵入しタイプしたのか、いや驚いた」としらを切った。「タイムズ」は、チェンバースがそれをどうやってのけたかを本気で論じ、「ネイション」はヒス邸への侵入方法に頭を悩ませた。
62年にニクソンが加州知事選に敗れた時、CBSは社会評論家となっていたヒスをゲストに呼んだ。92年に至るも「ポスト」は「ヒスがソ連スパイだった証拠はない」と書き、「タイムズ」も「ヒスはスパイでなかった」とのネイション研究所の冷戦記録の責任者の談話を載せた。
3年後の95年、「ヴェノナ」が公開されヒスらがソ連スパイと天下に晒された。だが、「タイムズ」は「呪文のごとく」ヒス無罪を唱え、02年にも「51年に(偽証罪で)有罪にされたが、無罪の証拠がもみ消されていた」と報じた。が、ヒスの仕組んだ目くらましの多くが後に訂正記事になった。
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この「タイムズ」の姿勢は、姉妹紙朝日の尋常と思えない安倍批判や慰安婦・南京の捏造、遡って北朝鮮の地上楽園視や拉致否定を彷彿させる。そして現在もこの「タイムズ」のリベラルぶりは健在だ。何かといえば、今はやりのキャンセルカルチャーだ。
キャンセルカルチャーとは、著名人など特定の対象のSNS等の言動に対し、前後の文脈や時代背景を無視して糾弾する現象のことを指す。銅像破壊などもその一例。(17日のCBNニュース)
産経は17日、「米に広がる左派の異論排除 退職記者が『言論封殺』告発」との記事を掲載した。これは、「タイムズ」のコラムニスト兼オピニオン編集担当バリ・ワイス女史のが、社内のキャンセルカルチャーを巡る「内戦」をツイートしたために、同僚から迫害を受けて退職した内情を報じたものだ。
上司の編集部長が先月、黒人暴行死事件の暴動鎮圧で「米軍投入」を唱えたコットン共和党上院議員の寄稿を載せた責任を取って辞めた際、彼女は「社会的不公正や人種差別に敏感な若手を中心とする社員と、40歳代以上のリベラル派の記者の間で“内戦”が起きている」とツイートした。
また「こうした内戦は全米の新聞・雑誌の社内で起きている」、「若手は自身が傷つくことを恐れて異なる意見を拒絶する“セーフティーイズム”に陥っているに過ぎない」とした。ネット公開した辞表で同紙の編集方針を「この新聞では、真実とは(取材で)発掘された事実の集合体ではなく、一握りの見識ある人物が自らの知識を正説として一般に広めるものと位置づけられている」と解説した。
編集姿勢が読者のツイッターに振り回され、「ソーシャルメディアが究極の編集者と化している」とも指摘、ネット閲覧数を稼ぐためトランプ批判記事を量産し、読者に攻撃されないよう原稿が編集され、同紙の思想的傾向に合致するよう書き直しを強いられるなど「自己検閲が常態化している」と非難した。
まるで産経の黒瀬特派員が朝日を念頭に捏造したのではないかと勘繰りたくなるほどの、多くの心ある保守派が想像していた通りの代表的リベラル紙の社内事情ではないか。筆者は朝日記者だった長谷川熙氏が書いた『崩壊 朝日新聞』(WAC)を思い出しつつ、本稿を書いた次第だ。