「死」についての議論

治る見込みがない難病を患う女性を医師2人が薬物で殺害したとして、医師ら2人の男が逮捕された嘱託殺人事件。

女性は筋萎縮性側索硬化症(ALS)という、体の筋肉が動かなくなっていく難病なんですが、1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり約1〜2.5人ほどが発症するそうです。昨年の参議院選挙で当選したれいわ新選組の舩後靖彦参議院議員もALS患者です。

今回殺害されたとされる女性はブログでこう発言をしていました。

常に身体的苦痛・不快を抱え、手間のかかる面倒臭い物扱いされ、「してあげる」「してもらってる」から感謝しなさい
屈辱的で惨めな毎日がずっと続く
ひとときも耐えられない
#安楽死 させてください
#ALS

本当に苦痛なんだと思います。
今回、逮捕された医師らはSNSでこの女性から頼まれて人を殺した嘱託殺人の容疑です。

尊厳死や安楽死というのはこうした事件が起こるたびにクローズアップされるんですがその後、忘れられていきます。この種の議論では尊厳死という言い方と安楽死という言い方が混在しています。その違いは、尊厳死が自らの意思で延命治療などをやめて自然に死んでいくこと、安楽死は死期が近く、苦痛がある中で医師によって患者の死期を早めることです。すなわち、尊厳死は延命のための治療をやめて死を選ぶということで、安楽死は苦痛に対して薬などで死を早めることです。

私は尊厳死、安楽死という議論を国会でしっかりやるべきだと思います。

今、日本では脳死は人の死として認められていますが、かつて脳死について議論をしたとき、私は国会議員でした。それまでは人の死というのは心臓が止まったときだけで、それ以外は死ではありませんでした。しかし、脳死というのはもう戻る見込みがなく、心臓だけが動き続けていくという、このことを死として認めるかどうかでした。

なぜこの議論がされたのかというと、臓器移植を求めて外国に渡って手術をする人が日本中で相次いだからです。人の死という価値観の問題ですから、国会議員は自民党など各政党は党議拘束を外して議員個個が自身の判断で賛成が反対の一票を投じる裁決を実施しました。

世界では、オランダが国としては2002年に初めて合法化され、その後ベルギーやルクセンブルク、カナダ、コロンビアで合法化されています。アメリカでは、1991年にオレゴン州で初めて州として法制化されて現在は八つの州(カリフォルニア州・コロラド州・オレゴン州・バーモント州・ワシントン州・ハワイ州・モンタナ州・メイン州)とコロンビア特別区で認められています。

議論の過程では賛否いろいろあり、やはり難航したようですけれども、2014年にカリフォルニア州の女性がオレゴン州に移住して薬を服用して亡くなった。すなわち先に法制化されていたオレゴン州に行って死を選んだということもあり、今ではカリフォルニア州も合法化されています。オレゴン州では、1998年~2019年の10年間で1657人が尊厳死を選んでおり、そのうち1244人(約75%)ががん患者で136人(8.2%)が先ほどのALS患者でした。

先ほど言った、国として世界で初めて法律ができたオランダでは、死を自ら選択する、安楽死が認められるために必須となる条件があります。

1)患者本人による完全に自発的な要求であること
2)患者が、改善の見通しがない耐えがたい苦しみに襲われており、安楽死以外の解決策が存在しないこと
3)安楽死の担当医以外の医師が本人を診察し、安楽死の是非について意見(セカンドオピニオン)すること  など

完全に患者自身の決断であり、自発的な意思表示があり、生きていくとなると、改善の見込みがない耐え難い苦痛があるということです。ALSの船後参議院議員は尊厳死などには反対という立場で、実際ALSの患者さんで懸命に生きている人もたくさんいます。

当然ですが生きるか死ぬかという二者択一ではないと私は思います。それと同時に、難病などで人生の終末期に死のタイミングを選べるようにするかどうかの議論は、これは私はちゃんと進めるべきだと思います。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。