銀行が消える日

岡本 裕明

東京で3年以上前から欲しかったある小さな不動産の売買交渉がようやくまとまり、近いうちに契約にこぎつけられそうです。その事業資金について手持ち資金を投入するか、銀行から借りるか迷いがありました。銀行金利は「社内金利」よりはるかに安いのですが、手続きとそれに伴うコストがバカになりません。巨大物件の巨額借り入れなら初期コストは目立たないのですが、比較的少額だと面倒くささだけが目立ちます。

(写真AC:編集部)

一方、わが社の「社内金利」がなぜ高いか、といえば借り入れに対するコスト意識を作るためであります。1%にも満たない金利は事業運営の判断に間違いを犯しやすくなるため健全で事業として妥当な利率を計算しています。現在なら2%程度が一つの目安となっています。つまり、銀行金利の2倍以上です。

その事業資金調達をどちらにするか検討していたところ、その結論は思わぬ形となって現れました。銀行が貸したくなさそうなのです。理由は不動産融資はその銀行の現在のポリシーに合わないから、というものです。今の借り入れはあと2年もすれば終わる中、他社がどうであれ、弊社は約定通り取引してきたのに銀行としては貸借関係を清算したいのだろうと理解しました。よってあえて喧嘩も売らず、「そうですか」で終わらせました。

手持ち資金を持つ会社に銀行が融資をしない、もっと言うなら不動産担保余力が借り入れ要望額の数倍ある中でそこまで消極的な姿勢の銀行に一種の恐怖心すら覚えました。「こりゃ、やる気がない」と。

先日、借地をしている物件の大家に家賃を払いました。1年分まとめて一括です。これを既に6年ぐらい続けています。当初、大家はびっくりしました。「1年分、前金で払ってもらえるのですか?」「はい、喜んで。」理由が分かる人がいれば金銭感覚に優れています。

月々数万円の借地権代に対して振込手数料が当時4-500円かかっていました。つまり、家賃の1%程度です。ネットバンキングで振込手数料が下がりましたが、それでもそれなりの額です。これを年払いにすれば振込手数料が大幅に削減できるし、振り込みの手間も省けるのです。たかが家賃の支払いで1%も手数料を払うのは経営者としては許されないムダなのです。

私のカナダの一部の事業では顧客からの入金の7-8割はクレジットカード決済に依存しています。そのため、カード会社とは手数料で0.1%を巡る交渉をするのです。まさに攻防です。「いやならカード会社を変える」とまで言います。(実際に競合させるため、2つの銀行、2つのカード会社と取引があります。)それは決済総額が数千万円から億近くなると0.1%の相違でも相当の手数料になることが分かっているからです。

一部の事業については私が直接会計ソフトを使って経理処理をしています。なので事業のコストは知り過ぎるほどわかっています。なぜ、社長のお前がやるのか、といえば私のところのようにマイクロカンパニーですとこのようなマイクロマネージメントをしないと成長ができないのです。経理処理をしていてずっと思っていることは日本の事業では銀行への手数料の支払い件数が異様に多いことです。こんなこと、日本の経営者はほとんど指摘していないと思います。細かいおっさんだな、と思われるでしょう。違うのです。他の社長は知らないだけなんです、どれだけ銀行にお金を吸い上げられているのかを。だからこそ、振込手数料支出をいかに減らすかはある意味面白い課題なのです。

日経に「銀行間送金網、フィンテックに開放へ 手数料下げ余地」とあります。記事からは全国銀行データ通信システムの振り込み手数料が高いので公正取引委員会や政府がフィンテック業者にシステムへの参入を可能にし、手数料の引き下げを行うというものです。正直、ようやくという感じです。

カナダではInteracなら手数料は無料、EFTでも加入パッケージによりますが、円貨で10円程度が振込手数料で、一定額を預金すれば手数料全部無料というところも普通にあります。つまり、カナダの銀行は手数料ビジネスからは既に卒業しているのに日本はそこにしがみつき、「お上」が守ってくれていたわけです。日本の銀行が変われない理由の一つでしょう。

手数料収入がどんどんなくなります。融資の審査もできません。国債の売買で稼ぐのにも限界があります。大手銀行は様々な大口顧客を持っているからよいでしょう。しかし、リテールバンクはどこに向かうのでしょうか?長く低金利が続いた日本の銀行は歌を忘れたカナリアならぬ「お金の扱い方をを忘れた金融業者」となってしまっています。

ほぼ毎月、日本の銀行とやらねばならない苦痛の作業があります。外貨建て送金を自社の外貨預金口座にいったん入れたあと円に換えて普通預金に入れる手続きです。このために窓口で書類を数枚書き、作業も20-30分を要するのです。銀行もこんなビジネスをしているのではもう経営効率も何もあったものじゃないと思います。フィンテックで数秒で終る、これが銀行経営に必要な経営ノウハウだと思います。さもなければ銀行は本当に消えてしまいかねません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年8月7日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。