副大統領候補に黒人女性のカマラ・ハリス上院議員を選んだ米民主党のバイデン候補(前副大統領)だが、バイデン氏が大統領選挙で勝利すれば、ハリス氏が米史上初めての女性かつ有色の副大統領となる。
だが、支持母体はそれだけではない。本名は母方ヒンズー伝統の女性名、カマラ・デビ(・ハリス)というハリス上院議員、米国で躍進するインド系社会のバックアップも大きくなってくる。
民主党のバイデン候補は早くから副大統領候補には女性をと表明しており、ミネソタ州での警察官による黒人暴行死事件をきっかけに起こったブラック・ライブズ・マター(みんな平等であるべき、黒人の命も大切だ)運動から、民主党内でも黒人女性を副大統領にとの声が高まっていた。
カリフォルニア州生まれのハリス上院議員は、父親がジャマイカ生まれのスタンフォード大のハリス教授だが、母親はインド・チェンナイ(旧マドラス)出身の著名医学者という移民2世。「カマラ・デビ」の名は米国のインド系社会でも注目材料だ。
米国へのインド移民数は1990年代に急増し始めた。米移民法改正で、高度熟練労働者に対する枠組みが広がり、インドのエンジニアたちが米国に流入。1995年以降のインド移民は、米国のIT産業のすそ野を受け持っている。
2014年に米国移民局が発行したH1ビザは31万6000に及ぶが、70%はインド人だ。また、インドは中国に次いで、多くの留学生を送っている。インド人の半数以上が永住権を獲得、他の国の移民と比較にならない高等教育を受け、修士、博士号を取得、高い就職率で、やがて高額所得者層の一部を構成する。重要なのは、インド系の多くが民主党支持者であるということだ。ここに民主党バイデン陣営のねらいがある。
このように民主バイデン陣営はハリス上院議員を副大統領候補として、黒人票をつかむことに加え、カリフォルニアのシリコンバレーを中心に、いまIT関連産業でのインド系米国人が躍進する米社会を見すえている。ハリス上院議員は、こうしたインド系の勢いのなかで、すでに民主党の大統領候補に名乗りを上げていたが、資金不足などにより、予備選挙が本格化するのを前に撤退している。
すでに英国でも、 就任当時のジョンソン首相が3人のインド系を閣僚に登用した。英語と民主主義を共有するのが、インド系とアングロサクソンのきずなだ。
米国社会でのインド系の地位は日増しに強固になっている。共和党でも女性のニッキー・ヘイリー氏は、サウスカロライナ州下院議員から同州知事、さらにトランプ大統領により国連大使を務めた。ヘイリー氏は共和党員だが、大統領選挙ではトランプ支持でなかった。が、トランプ側のインド系をにらんでの政治戦略で、国連大使指名を得たのだ。このニッキー・ヘイリー氏の父母もインド・パンジャブ州出身のシーク教徒の移民だ。
ロンドンに本拠を置き、世界70ヵ国に事業ネットワークを展開する金融グループ、スタンダード・チャータードの調査報告では、インドは2030年までに米国よりも大きな経済を持つという。何よりも無視できないのが、グローバル社会に必須のインドの英語と民主主義の土台だ。
さらに、米国全土でインド市民文化も定着する動きだ。インドの最大手ラジオ局「ラジオ・ミルチ」が、米東部首都圏で放送を開始、すでに中西部へも拡大へ向かっている。
ラジオ・ミルチはニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州の3州で最初の放送を始めたが、このニューヨーク大都市圏の移民人口の大部分はインド系だという。オハイオ州クリーブランド、コロンバス、ジョージア州アトランタ、ミズーリ州セントルイス、さらにワシントン首都圏のバージニア州リッチモンドと、東部から中西部とくまなく拡大を続けている。
民主党副大統領候補、カマラ・デビ・ハリス上院議員支援のすそ野は、このように限りなく広い。