「廃棄前提おじさん」が炎上してしまった3つの理由を論考する

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

Twitterで「廃棄前提おじさん」が炎上している。通常、Twitterでの炎上といえば差別的な発言をしたり、コンビニでアイスケースに入るなど、反社会的行為や店舗側に大きな損失を与えた場合に多かった。

だが、この廃棄前提おじさんについては、特別犯罪行為に値することはしていない。Twitterで所感をつぶやいただけだ。

にもかかわらず、なぜこれほど炎上し、多くの人に叩かれてしまったのだろう。今回、炎上した理由を論考したい。

※事前にお断りしておくが、筆者は本人を中傷する意図はない。本人のツイートも引用しない。ネット炎上という現象を対象とし、その発生原因を究明する意図でこの記事は書かれた。

https://twitter.com/takeokurosaka/status/1294064493022994434

ことのあらまし

本件のあらましをご存じない方のために、下記の通り解説しておく。群馬県にある温泉旅館の宿泊客のツイートが旅館を批判しているとされ、炎上したものである。

「シニア世代をターゲットとした宿泊施設なのに、食べきれないほどの量だった。廃棄前提としか思えない」

という趣旨を写真付きでツイートするも、その食事量が旅館が提供する分量として常識的なものであった。このことから、多くの批判を呼ぶこととなったと見られる。

ではここからその炎上した理由を考えていきたい。

※画像はイメージです(ぱくたそ)

1. 認識の誤りがあった

まず、第一には彼のつぶやきには、本質的な「認識の誤り」が含まれていたことだ。ネットでは誤った情報を発信することによって、それを正すためのコメントが入ってしまう。

旅館の食事が食べ切れないほど多かった

彼はこのようにつぶやいている。ここまでであれば、「個人の感想」の範疇であり、おそらく誰も気に留めなかったつぶやきで終わっていただろう。なぜなら、食事量が彼にとって多く感じるものであり、結果として食べきれなかったというのは「本人にとっての事実」だからである。

だが、後続の旅館への解釈をするつぶやきが、多くの人からの怒りのコメントを誘発してしまったと見られる。

「廃棄前提で食べきれない食事を提供することで、顧客満足を高めようというサービスは前時代的だ」

という部分だ。コロナ禍は観光業界に大打撃を与えた。Go Toキャンペーンはそんな宿泊施設への救済措置の一環として、税金が投入されて観光を促す名目で開始された。つまり、「廃棄前提で食べ切れないほど食事を出す」ということができる経営体力のある宿泊施設は、そもそも多くないのは自明であり、そこの解釈を誤ったことが炎上の原因の1つではないだろうか。

2. 問題を他責にした

そして「食べきれない食事量」の問題点を旅館側に置いた、つまりは自責ではなく他責としたことも、炎上につながったと感じる。

投稿された食事の写真を見る限り、とりわけ非常識に感じるほどの分量には思えない。宿泊客としては、事前に食事内容をチェックした上で温泉旅館を利用する、というのは一般的な行動であり「なぜ、事前に調べなかった自分の落ち度を旅館の責任にするのか!」というコメントが寄せられることとなったのだろう。

「食事が食べきれず…。自分も若くないなw」

「食事が食べきれず…。でもおいしかった!」

など、食べきれなかった問題を「自責」や「旅館への感謝」に置き換えることで、本炎上は回避できた可能性がある。

3. 断定口調

Twitterなど公共への発信メディアの際に、炎上を回避するためには「個人の意見」と「事実」を明確に分ける必要がある。

「廃棄前提としか思えない」

と断定的だったことも、炎上に火をつけたのではないだろうか。これは微細な言葉の表現の違いではあるが、炎上とそうでないつぶやきを分ける「決定的な差」になり得る要素だ。「◯◯なのかも」「◯◯なのかな?」と可能性を示唆するものであれば、個人の感想になったのだが、「◯◯だ」と断定口調になると「事実」を明言していると取られてしまうだろう。

逆にこの違いを利用し、意図的に断定口調を使うことで炎上、そしてアクセスを増やす「炎上芸人」もいることから、この断定口調も炎上につながった可能性が感じられる。

まとめ

今は誰でもネットで情報発信ができる。

「発信の作法」を誤ると思わぬ炎上を招いてしまう。「ネットが手軽になった今、騙されないための情報リテラシーをつけよ」とインプットの質を高める有用性が取りざたされるが、望まぬ炎上を回避するためにも「発信の作法」を事前に身につけておくことも必要ではないだろうか。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。