わざと感染するコロナパーティーは本当に実在したのか?

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

自ら3密に飛び込み、「ウイルスなんてなんのその」とバカ騒ぎをする様子は、世界のあちこちで起きている。米国ではコロナチャレンジやパーティー、フランスでは違法レイブ、そして我が国でもJR渋谷駅前でクラスターフェスが開催された。

Gerd Altmann/Pixabay

このような騒ぎに加わる人たちは、特定の文化圏に限定されない。世界の複数箇所で起きている。人類で共有する心理的な何かが作用しているのだろうか。筆者はビジネス誌・プレジデントでも「コロナ感染大国の米国で”濃厚接触”パーティー発生!…感染者に石を投げる日本人」という記事でこの問題を取り上げた。

だが、一部のこうしたバカ騒ぎそのものが、「フェイクニュースの可能性がある」とWIRED US版の記事「‘Covid Parties’ Are Not a Thing」によって示された(もちろん、フェイクニュースと疑わしいのは一部であり、間違いなく開催された騒ぎも存在する。証拠も多数見つかっている)。

「実はコロナパーティーなんてなかったのかもしれない」とは一体、どういうことなのだろうか。

フェイクと疑わしいコロナパーティーの「奇妙な共通点」

WIREDの記事によると、フェイクと疑わしい新型コロナにわざと挑戦する「コロナパーティー」には「奇妙な共通点」があるのだという。

・ニュースの情報源は、いつも政府か保健当局の関係者。

・発生した出来事を数人が経由した情報。

・最初に地元メディアが報道し、その後大手メディアが詳しく取り上げる流れ。

・パーティー開催の証拠が示されていない。

それによって、実際に次のような状況が起きているという。原文を転載する。

His one-sentence anecdote, presented without any further detail, was dutifully passed along as news by CNN, NPR, The Washington Post, and other outlets. 

たった一人の証拠なき証言者を地元メディアに報道し、それを大手メディアCNN、NPR、ワシントン・ポスト紙が取り上げ、世界に拡散している状態なのだという。

もちろん、全てではない。こうしたパーティーはバカ騒ぎをする様子を示す動画や写真が多く出回り、間違いなくパーティーの存在が証明されている。だが、一部においてはこのような噂と伝言ゲームが起きており、フェイクニュースの可能性をWIREDは示唆している。

「ウソでした」ではすまない

仮に本当にフェイクニュースだったとするなら、文字通りシャレではすまない。これは憎むべき犯罪行為に値するだろう。

その最大の懸念は模倣者を出すことである。それにより、結果としてウイルスの感染者や死者を増やし、医療や警備リソースを消費させ、挙げ句国際的な信用問題にも関わる。つまり、不必要に国家のリソースを食い、国民の不安を増大させる点においてはテロ行為と変わらない。

米国は感染拡大を抑えられないことで、中国から非難の付け入るスキを与えた。中国共産党の機関紙「環球時報」では、有効な対策が打てていないと米国を酷評した。また、欧州外交問題評議会(ECFR)では米国のコロナ対応に失望したと欧州の意識が浮き彫りになっており、欧州の一部の国においては米国の入国を拒絶する事態を招いている。

ただでさえ、米国は感染拡大を抑えられず、国際的な信頼失墜を招いている。今の状況に加えて、フェイクニュース(仮にフェイクだったら)が信頼失墜の一助になっているというなら、もはや国際関係にまで影響を与えていると言えるだろう。

ニュースにおける悪魔の証明

こうした時に持ち上がる議論が「悪魔の証明(probatio diabolica)」の難しさだ。

悪魔の証明とは、ローマ法下において、土地や物品等の所有権の帰属を証明することの難しさをたとえたことが由来とされる。端的に言えば「”ない”を証明することは難しい」ということだ。よくある悪魔の証明のたとえとしては次のようなものがある。「世界大戦時に、鎖鎌を武器にした兵士がいた」という話である。

「ある」を証明するなら、鎖鎌を武器にした写真1枚や、関連する当時の文献を1つ見つるだけでいい。だが、「ない」を証明することは不可能に近い。「ある」かもしれない可能性をなくすることは、当時戦争に関わっていたすべての人物を調査でもしない限り、ほぼ不可能だからだ。

これと同じことが、ニュースにも言える。コロナパーティーで浮かれている様子の動画や写真が出てくれば、本当に実在したことが証明できる。実際に、冒頭の米国・フランス・日本のどんちゃん騒ぎは、いずれも証拠となる動画や写真が存在する。だが、WIREDが懸念を抱く「証拠なきパーティー」もあるのだ。そしてその実在性を問われると、途端に話は難しくなる。

「パーティー開催の証拠を示す写真や動画はないが、実際にどんちゃん騒ぎがありました」と誰かが証言したら、後から遡及して「なかった」を証明することは事実上不可能に近い。

いずれにせよ、ただでさえ、ウイルスで誰もが疲労している。コロナパーティーなどメリットなき行為は直ちに止めるべきだ。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。