中米の独裁国家ニカラグアから職を求めてスペインに移民して来たエレアサル・ブランドン(42)が今月2日、郷里に妊娠中の妻と4人の子どもを残して、熱中症で死亡した。夫であり父親であるエレアサルからの仕送りがなくなり、ニカラグアの家族はこれからどのように生活していくのだろうか。
ニカラグアなど、中南米の小国は、日本では馴染みがないかもしれない。しかし、スペインに住む筆者が日々口にしているアンダルシア地方やムルシア地方産のスイカやメロンなどの農作物の収穫には、日雇い人夫が安い賃金で働いている。その中にはまだ在住許可証を取得せずに違法で働いている、中南米や北アフリカからの移民も多くいる。エレアサルもその一人だった。
エレアサルは昨年ニカラグアを出てスペイン・バスク地方の都市ビルバオに到着した。ニカラグアを出国した理由は仕事がなく生活苦にあったことと、独裁者ダニエル・オルテガの政治体制に反対して抗議したことから警察に追われるようになったからだ。先に移住していた妹を頼ってのことだった。
亡命者としてスペインで申請する予定だったが、亡命申請者が多く、次の申請受理は数か月先ということになった。申請書が受理されれば、それが認可される間少なくとも半年は合法的に働くこともできたのだが、それを待っているうちに、コロナのパンデミックが起こり、スペインには失業者があふれた。
その後、闇の仕事を求めて、妹とアンダルシアのアルメリアに移り、ミネラルウォータを配給する仕事に就いた。その間も亡命申請をすることに努めたが、申請受付の通知はなかった。そうこうしている間にムルシア地方に行けばお金を稼げ、亡命申請も可能だという情報を掴んだのでエレアサルだけムルシアに向かった。
ムルシア地方のある町で彼が就いた仕事は、広大な畑でスイカを収穫することであった。同国出身の仕事仲間だった一人が、匿名で取材に応じている。(参照:elpais.com)
彼の説明によると、仕事は早朝6時から午後6時まで12時間スイカを収穫することだ。日当は30ユーロ(3600円)。しかし、それも予定通りの収穫をした場合のみで、午前10時の30分の食事時間と午後2時から3時までの休憩時間は日当には入っていない。現場までライトバンで行く交通費も6ユーロ差し引かれるという。
「エレアサルは背中に問題を抱えていたので相当にしんどい仕事になった。ひざまずくことなくしゃがんでの作業だった。しかも、手早く作業をせねばならなかった」と彼は語った。
彼らが働いていた場所は炎天下で気温は摂氏44度以上になり、飲み水は一切提供されない。エレアサルが倒れた日はまさに彼が初めて水を持参した日だったそうだ。彼が仲間と一緒に住んでいた家の家主によると、彼にはミネラルウォーターを買うお金もなかったということらしい。あるいは、そのお金さえも家族への仕送りに加えられると考えたのかもしれない。
炎天下での過酷な作業に耐えきれず倒れた時も、現場監督は救急車をすぐに呼ぶことをせず、仕事が終了するまで倒れたまま放置。仕事が終了して仲間を町内で順番に下ろした後、最後に彼を診療所の玄関のところに放置したまま運転手はそこを去ったというのだ。診療所の玄関のところで彼が横たわっているのに気づき病院に搬送したが、手遅れだった。
治安警察は彼らの現場監督をしていた50歳のエクアドル人を拘束した。仕事仲間の話によると、このエクアドル人はいつも最悪の仕事を彼らに与えることでよく知られていたそうだ。仲間のひとりが非常に暑かった日に水を要望すると、「お前は俺も身内でもない、死んでしまえ」と蔑視するかのように素っ気なく答えたそうだ。彼はそれを半ば冗談と受け止めたそうだ。しかし、亡くなったエレアサルは真面目な性分だったので聞き流すことができなかったようだ。
彼の遺体をニカラグアに送るには5000ユーロ(60万円)が必要ということで、ニカラグアにいる彼の妹らが中心になってフェイスブックなどで資金集めを計画していた。これを知ったスペイン政府のヨランダ・ディアス労働相が彼の妹アナと接触。遺体の搬送費用はスペイン政府が負担することを伝えたそうだ。