私はいわゆる『完全他人介護』で暮らしています。京都の事件の患者さんも同じく24時間『完全他人介護』で暮らしていたようです。そこで「お金」に関する質問をよく受けるようになりました。
ご安心ください!
この日本には先輩患者の想像もつかないほどの政府への不断の働きかけによって、ALS患者が『公費』で生きられる制度が整っています。
①難病指定受給者証
ALSは国が指定する難病の一つです。受給者証の交付を受けると医療保険での受診の支払額に症状に応じた上限が設けられます。私の場合人工呼吸器装着なので、自己負担の上限は月5,000円です。病院受診、往診、訪問看護師、薬などは医療保険なので、上限額で賄えます。上限額は世帯所得によって変動します。
②障害者手帳
この交付を受けると、各種福祉サービス、公共交通機関・駐車場料金・携帯・NHK・自動車税などが障害の度合いに応じて割引となります。申請出来る病状に進行したら必ず申請してください。また、居宅介護、重度訪問介護など福祉サービスや難病以外の医療費負担を軽減できるサービスを受けるためには別途、各受給者証の申請が必要となります。
③日常生活用具、補装具
障害者手帳の障害の部位や度合いに応じて、生活上必要不可欠な用具には補助金が出ます。日常生活用具の給付額は市町村によって異なりますが、大部分は補助金で賄えます。ALSだと車椅子、吸引機、コミュニケーション機器(パソコン、iPad、コミュニケーションソフト)などの必需品が補助金対象で購入出来ます。世帯所得によって自己負担の上限額が設定されます。
④市町村における低額納税者への補助
低所得者向けの制度です。これによって医療保険が完全無料になったり、子供の幼稚園や学校の費用に補助金が出たりします。これは障害云々関係なく利用出来るサービスです。
⑤介護保険
ALSは特定疾病に入っているので40歳以上で利用出来る制度です。例えば私は、訪問入浴、電動ベッド・移乗用リフトのレンタル、ヘルパーさんに利用しています。様々なサービスが1~3割の自己負担で受けられます。しかし介護保険だけでは完全他人介護は不可能です。介護保険には『要介護度』と呼ばれる介護の必要度合いに応じて、利用出来るサービス額の上限が定められ、上限を超えて受けたサービスは10割=全額自己負担となります。
加えて介護保険でヘルパーさんを利用するにはいわゆる『2時間ルール』と呼ばれる、一度ヘルパーさんを利用したら2時間空けないと、次のヘルパーさんを利用した請求額が合算になってしまい、ヘルパーさんの収入が減るため利用がしにくいという制度上の縛りがあります。よってどれだけお金持ちでも介護保険で完全他人介護を成し遂げるのは不可能です。そこで登場するのが次の制度です。
⑥重度訪問介護
介護保険のサービスの上限を受けても(40歳未満は介護保険関係なく)、必要な介護サービスに達しないと市町村が判断した時、症状に応じて必要なヘルパーさんが入れる時間数を市町村が患者に給付する仕組みです。給付された時間数以内なら世帯所得で上限額が決められ、その上限額のみの支払いでヘルパーさんを利用出来ます。つまり、24時間×31日(一ヶ月の最大日数)=744時間/月の時間数の給付を受けて、それを全て埋められるヘルパーさんを確保出来れば、完全他人介護完成!ということになります。
他にも様々な制度がありますが、今回挙げた6つ全てに精通している在宅医療従事者は100人に1人もいません。ただでさえ制度を活用するのにも今の社会環境では大きなハードルがあるのに、制度そのものを知らなければ「ALSと共に生きる」スタートラインにも立てません。
どうか知ってください!本人も家族も医師もケアマネも知ってください!命の選択はそれからです!
この記事は、株式会社まんまる笑店代表取締役社長、恩田聖敬氏(岐阜フットボールクラブ元社長)のブログ「ALSと共に生きる恩田聖敬のブログ」2020年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。