潰れない学校の選び方 〜 あの英会話学校の事例に学ぶ

関谷 信之

友人から相談を受けました。息子さんの学校についてです。息子さんは現在18歳。今年の春、高校を卒業し、そのままフリーターに。お金が貯まったので、アルバイトを続けながらビジネス系の資格を取りたい、とのことでした。自分でお金を貯め、学校に通うとは立派な息子さんです。

意外なことに、友人が知りたかったことは「この学校は潰れないか?」ということでした。

というのも、友人は13年ほど前、通っていた英会話学校が潰れ、痛い目にあっているからです。彼が通っていたのは、英会話学校ノヴァ(以下、旧NOVA)でした。ご記憶の方も多いでしょう。当時、超大手英会話学校の倒産は大きな話題となりました。現在は、経営陣を刷新した株式会社NOVA(以下、新NOVA)が事業を引き継いでいます。

息子が一生懸命貯めたアルバイト代。学校が潰れて、ムダになる事態は防ぎたい。実経験のある親として、そう考えるのは無理もありません。

旧NOVAをモデルに、教育事業について考察してみたいと思います。

なぜ旧NOVAは倒産したのか

2006年、破綻で教室を閉鎖したNOVA(ORAZ Studio/flickr)

なぜ、旧NOVAは倒産したのでしょうか。

こう言っては身も蓋もないですが、「お金が無くなったから」です。ただし、旧NOVAの場合、お金の無くなり方に問題があります。

旧NOVAは、チケット販売により、レッスン料を「売上前」に受け取っていました。一方、レッスンに伴い発生する講師料などは「売上後」です。また、大規模な設備投資は必要ありません。

つまり、製造業などに比べ資金繰りが非常に楽である。「お金が無くなりにくいビジネスモデル」である、と言えます。こういった場合、経営者が油断しがちです。さらに、旧NOVAにはCFO(chief financial officer=財務責任役員)がおらず、財務管理体制が脆弱でした。

結果、資金計画が甘くなり、資金ショートに陥った。これが旧NOVAにお金が無くなった主要因です。

旧NOVAの社是にみられる2つの問題

「利益はすべて投資にまわし、常に前進していくべし」。

これが旧NOVAの社是です。

この社是には2つの問題があります。

1つ目は「利益」の捉え方が異なっていたことです。

会計的には、生徒からレッスン料が入金されても「利益」ではありません。学校側から見れば、生徒から預かったお金、つまり負債(借金)です。一般的には「前受金」という勘定科目を用います。レッスンの実施(役務の提供)に伴い、ようやく「利益」(≒売上)となります。

旧NOVAでは、この負債を「利益」と捉えていたのではないでしょうか。

2つ目は、「すべてを投資にまわし」の箇所です。

当時の旧NOVAが採用していたのは「超」拡大戦略でした。「負債」であるレッスン料を、新規出店や多額の広告宣伝費に使った。つまり「投資にまわしてしまった」のです。結果、生徒に渡すテキスト作成や、講師料などの原資が不足。出費を減らすため、レッスンのコマ数を減らす。生徒がレッスン予約できず評判が落ちる。入学者が減り、資金繰りが悪化する。そういった負のサイクルに陥りました。

こういった事態に陥る可能性が高いのは、教育事業だけではありません。クラウドやサブスクリプションサービスなど、役務提供前に入金があり、費用の発生が後払いの事業も同様です。資金運用をより慎重に行う必要があります。

管理で防ぐか、仕組みで防ぐか

では、旧NOVAのような資金ショートを防ぐためには、どのようにすればよいでしょうか。

ひとつは、しっかりした資金計画を立てることでしょう。財務部門の強化や、CFOの採用などにより資金計画の精度を高める。これは、資金ショートを「管理で防ぐ」方法、と言えます。

旧NOVA社長の猿橋望氏は、インタビューで以下のように述べています。

悔やんだところで仕方がないけれど、最も私が悔やんでいるのはCFOがいなかったことです

出典:いかにして最大手NOVAは破綻への道を辿ったのか(ダイヤモンド・オンライン)

もうひとつは、「売上前」に、多額のお金を受け取らないことです。お金があると使ってしまうから、受け取らない。賢明です。これは、新NOVAで実施している方法でもあります。新NOVAでは、長期のチケット販売制を改め、毎月レッスン料を受け取る「月謝制」を導入しています。資金ショートを「仕組みで防ぐ」方法、と言えるでしょう。

潰れない学校の選び方

では、親はどのような視点で、学校を選べば良いでしょうか。

ご両親が、決算書を見るのは現実的ではありませんね。過剰なテレビCMを行っていないか、急に新しい教室が増えていないか、などを注意すべきでしょう。また、長期間パッケージや、複数科目パッケージを選ばず、短期・単科の講座を受講したほうが、リスクを低減できます。

多角化候補としての教育事業について

教育事業は、企業の多角化候補として、注目されているようです。

景気低迷、コロナ禍…いま「教育ビジネス」が狙い目となる理由(幻冬舎ゴールドオンライン)

背景には、子供1人にかける教育費の増大により、市場規模が維持されていること。コロナなど予期せぬ環境変化でも、影響を受けにくいことがあります。

旧NOVAの倒産は、英会話学校だけでなく、教育業界全体に大きな影響を及ぼしました。ある資格学校では、入学説明会のとき、「ここは潰れませんか?」と、毎回のように聞かれたそうです。あの旧NOVAが倒産するのであれば、「この学校も危ないのでは?」と不安になるのも当然でしょう。

教育事業に参入する場合は、しっかりと資金計画を立てていただき、旧NOVAのような事態に陥らないでいただきたいと思います。

[備考]
本稿は、学校教育法で定める学校ではなく、株式会社等による運営事業を対象として考察している。