陸自OBで第40普通科連隊長、東部方面混成団長などを歴任した二見龍氏の新刊が面白いです。
二見氏はダットサイトや新型のスコープなどを見せられても「ウチの中隊の○○2曹なら同じように当てられます」だから必要ないと主張する隊員の話を紹介しています。でも○○2曹以外は当てられない、であれば新しい装備を導入すべき、とはならない発想を問題としています。
陸上自衛隊には「他を知ろうとしない文化」があり、「与えられたものだけで戦闘をするものだという考え方がすりこまれている(P50~51)。
つまりは思考停止、現状維持こそ大事という発想です。
訓練では「ある状況」を設定しています。しかし、どのような状況であっても、敵(対抗部隊)はワンパターンで、型にはまった行動しかとりません。また、「住民は全員避難しているとする」、「市街戦の建物や車はなかったことにする」と、常に「実際とは違うかもしれないが、これはこういうものとする」という仮想の状況を設定しかおこないません。(P54 ~55)。
これは連隊長時代のお話ですが、今も大して変わっていないようです。
演習の実態をこう説明しています。
この演習場では敵の配置されるところは決まっている。また大規模な戦闘ができるところは、この演習場では1ヶ所しかない。そのため、防御している的に対しては、味方はここから回り込めばいい」と彼らは熟知しているのです。
本来訓練や演習は実戦を想定し、そのために問題点を洗い出すために行うのですが、単に訓練演習をスムーズに行う、ある意味仮面ライダーショー的になっているわけです。訓練のための訓練になっています。
訓練検閲は劇だと二見氏は述べています。
統裁部は今までのデータに基づいて訓練を作るので、彼らが作成したシナリオに乗って動くことは受閲部隊にとって難しいことではありません。そのシナリオ通りに動ければ、検閲ではいい評価がもらえることになります。もちろん敵役の対抗部隊も、最後は受閲部隊が活躍できるようにします。
万が一、予定外の行動が多発したら、例えば対抗部隊が徹底的に戦い抜いて受閲部隊を撃破したら、どうなるのか。
統裁部が混乱してしまい、機能不全に陥ったり、受閲部隊の損害が大きいために、それ以上検閲を続けられない状況になったりします。すると、その時点で建設を終了させなければなりません。
(中略)
対抗部隊もいつかは検閲を受ける時期が来ます。壊滅させられた部隊は、壊滅させられた部隊は、壊滅させた部隊に対してどう対応するかは明らかです。そのため対抗部隊は「自分たちの部隊が検閲を受けるときに仕返しされたくない」と考えるでしょう。
(中略)
対抗部隊が予期しなかったような行動をとった場合でも、統裁部は支持をだして、対抗部隊を一時停止させたり、対抗部隊に損害が発生したようにシチュエーションを変更したりして、受閲部隊が建て直しを図れるようにします。シナリオ通りの枠組みに上手くはめ込むのです。こうして見栄えのいい訓練検閲という「劇」ができ上がっていきます。
まさに「劇団陸上自衛隊」です。サバイバルゲーム以下です。サバゲではどちらのチームも勝とうと必死になって頭を使いますし、馴れ合いもしません。
演習は戦争ごっこ以下、ということになります。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年9月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。