米ドルは基軸通貨を維持できるのか?

岡本 裕明

Images Money/flickr

米ドルがこのところ他通貨に対して弱含みになっていることで米ドルの覇権が揺らいでいるのではないか、という見方が一部であります。本当でしょうか?少し検証してみましょう。

ドルの相場と言えばドルインデックスがその代表的指標になると思います。ドルインデックスもいろいろなものがありますがその違いは比較対象とする他国通貨の種類の数であります。代表的なインデックスの一つ、DXY指標で見ると概ね93程度。これが今年の3月に102のピークを付けてから下落しているのでドル覇権への疑問の始まりだと思います。

リーマンショックの時、ドルインデックスは71ぐらいまで下がっています。よって現在の93は決して他通貨に対して極端な弱含みではありません。リーマンショックでドルが弱くなったのは利下げと長期にわたる低金利へのコミットメントに対する市場の衝撃があったものと思われます。今回、インデックスが93まで下がているのもFRBが長期にかつ、インフレが2%程度を安定的に維持するまで利上げをしないといっていることでドルの価値が下がっていることは要因の一つだと思います。

ただ、ドル覇権への疑問がわくもう一つの理由は米中関係の悪化に伴い、中国が元のデジタル化の実用にむけて準備を進めていること、経済のデカップリングが仮にある場合の貿易等のやり取りで仮想通貨へのシフトが考えらえるなど、代替通貨の利用が進む可能性があるからです。

例えば香港問題が起きた今年、仮想通貨でステーブルコインのテザーは9月半ばには時価総額が年初から4倍の150億ドルになったとされます。なぜビットコインではなくテザーなのか、と言えば同通貨がUS㌦の資産を担保にした通貨だからとされています。(それを疑問視するアメリカなどでその事実関係の調査が進んでいます。)事実、テザーの相場はごく一時期を除き、ほとんど動かない相場です。この1年を見ても1%動くのはまれで概ね0.5-0.3%程度に収れんしています。ある意味、世の中で最も安定している通貨の一つとも言えます。

ではなぜ、テザーが今年急激に取引量を増やしたかと言えば香港や中国からドルを含む他通貨への移動にこれを介したとみる向きが大きいようです。中国元はかつてのブラジルの通貨のように厳しい持ち出し制限がある通貨であって国内専用通貨のようなものであります。となれば元を流通可能通貨に換えるプロセスでテザーが利用されたのは至極当然の流れのように思えます。

専門家は米ドルの覇権に疑問はつくが、それに代わる通貨が今のところないとほぼ口をそろえて言います。それは特定政府の信用通貨という枠組みから発想が抜け出せないからなのでしょう。かつて金や銀が通貨としての役目を果たしていました。これは世界の中で政府信用という発想がなかったため、世界で共通して価値があると認める金や銀を国家間の信用の媒介手段に使ったわけです。

では現在の政府が発行する信用通貨は本当にリライアブルかと言えば疑問は残ります。コロナの支援対策でアメリカの財政を含め各国は自国の財政に傷がつくどころか国によっては血まみれになっています。

一方で財政の信用性がない国々、南米やアフリカ、東アジア諸国では自国通貨とドルを使い分けています。途上国ではホテルなどの支払いをドル建てにしているのは外貨獲得が国策として求められているとも言えます。ところがそもそものドルは本当に健全か、と言えば今のところは口にこそしないけれど基軸通貨と言えるほど絶対安全性が保証できないかもしれません。

その理由の一つに株式市場における狂気の沙汰の時価総額があります。GAFAやテスラをはじめ先週上場し一度も黒字になったことがないスノーフレーク社に時価総額7兆円という数字が付く現状を見てハイテクバブルというより米ドルの物価が壊れているとみた方が正しく、ドルが不健全にまだ高すぎるという傾向が見て取れるのです。

なんでこのような事態になったか、と言えば基軸通貨のバトンを英国からもらったアメリカが製造業をことごとくあきらめ、資本主義でもその悪影響が出やすい部分、投資や投機を促進させ、国内産業の育成よりも高度な会社運営、税制やマネーを技術的道具にすること、世界の頭脳の集約、情報の集約などに特化しすぎたことで過剰な価値創出に一躍買ったのだろうと思っています。

本質的には世界がもっと水平展開すべきところが垂直展開し、アメリカだけが特定の部分を牛耳ってしまったことが問題なのです。例えば本来であれば他の主要国が金利を2-3%引き上げたらドル価値は崩落するはずです。アメリカはインフレになるでしょう。ただそうならないのは他の主要国が金利を引き上げられる自国経済のファンダメンタルズすら十分ではない垂直展開という名の従属状態になっていることなのでしょう。

一番怖いのは仮に通貨のデカップリングが生じ、中国元がデジタル元も含め、世界で流通するようになればこの脆弱性がみられる基軸通貨ドルの覇権は崩れやすくなるという点です。よって個人的には西側諸国が通貨バスケットによるデジタル通貨を至急、作り上げるしかないと考えています。各国の信用ではなく、信用の持ち寄りによるバスケット方式でステーブル通貨を作り上げれば世界貿易は為替リスクも極端に少なくなり全く違う世界が生まれることになるはずです。これは断言しても良いと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月22日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。