「世田谷に空き家5万戸の衝撃」があまり衝撃ではない理由

高幡 和也

写真AC:編集部

世田谷に空き家5万戸

先日、「世田谷に空き家5万戸」がツイッターのトレンド入りしていたので、空き家問題で何か衝撃の新事実が発覚したのかと思い調べてみたのだが、これは「住宅・土地統計調査」の結果をソースにした朝日新聞デジタルの記事がその原因だったと分かった。

※参考 朝日新聞デジタル「世田谷に空き家5万戸の衝撃 2割以上が市場に流通せず

誰も住んでおらず、ツタが絡まり、ところどころ破損し、朽ちかけた古い一戸建。これこそまさに多くの人が持っている空き家のイメージだろう。

そんなイメージどおりの空き家が世田谷に5万件もあったら誰もが驚愕する、が、しかし、人気の住宅地であり地価も高い世田谷にそんな空き家が5万件もあるはずはない。

空き家問題がなかなか解決しないのは、その空き家が社会的に需要がなく「お金を生まない」ことが主因であることは以前にも触れさせていただいた。

※参考 空き家増加、土地所有者不明…根本原因は「お金にならない」から

もちろん朝日新聞の記事はフェイクではない。問題はこの「5万戸の空き家」が恐らく、一般的に多くの人たちが想像している空き家のイメージとは違うものであるということである。

結論から言うと、この差は「戸数」か「棟数」かによるものだ。

5万戸の空き家の正体

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総務省が行っている住宅・土地統計調査では、住宅の定義を次のように定めている。

住宅:一戸建の住宅やアパートのように完全に区画された建物の一部で,一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができるように建築又は改造されたものをいう。

さも当たり前の定義だが、ここで注意すべきは、この定義が「空き家」にも当てはまるということである。

住宅・土地統計調査では、二次的住宅(別荘など)や賃貸用の住宅(アパート、賃貸マンション)、売却用の住宅、建築中の住宅(戸締まりができる程度になっているもの)についても人が住んでいない住宅であれば、それは「空き家」としてカウントされる。

つまり、アパートの一室が空室の場合でも、ワンルームマンションの一室が空室の場合でも、販売中の建売住宅や分譲マンションについても人が住んでいないと判断されれば、それは「空き家」としてカウントされるのである。

世田谷の5万戸の空き家の中身は、アパート・マンションの空室、完成した建売住宅・分譲マンション、そして「イメージどおりの空き家」その他によって構成されている。

では実際に「イメージどおりの空き家」はどれ位あるのか?

世田谷区では空き家対策の一環として、「空家等実態調査」を行っている。
世田谷区が調査したのは、空家法第2条第1項に規定する「空家等」で、戸建住宅、住戸全てが空いている共同住宅・長屋、店舗・工場等(非住宅)が対象である。

ここでいう「空家等」こそ、一般的にイメージする空き家そのものではないだろうか。

この調査の結果、世田谷が空家等と推定した建物は2017年7月末時点で966棟だ。

※参考 世田谷区空家等実態調査報告書 

もちろん966棟という数字が少ない訳ではない。この空家等のうち、管理良好な建物は485棟で、それ以外は管理不全だったり管理不全予備軍となっている。

世田谷区によれば2011年度の世田谷区土地利用現況調査により把握した空家数は277棟で、これと比較すると空家等の棟数はこの6年間で約3.5倍に増加している。

つまり、イメージどおりの空き家が増えているのも事実である。

空き家の何が問題なのか

世田谷に空き家5万戸というフレーズはショッキングだが、そのイメージだけにとらわれてしまうと空き家問題の本質を見誤ってしまう。

管理が良好な空き家は、市場に流通(賃貸・分譲)することで区内外からの住み替え希望者の受け皿になる。円滑な住み替えの為にはある程度の空き家が必要なのである。

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空き家が増えることの最大の問題は、管理不全の空き家が老朽化し、それが進行すると、倒壊の危険、治安・景観の悪化や不動産価値の低下など周辺環境に多大な悪影響(外部不経済)を及ぼすことである。その様な空き家の解消については対策の手を緩めてはいけない。

しかし、効果の高い空き家対策を行うためには、さまざまなデータを用いることは当然として、「世田谷区に空き家5万戸」に驚愕するよりも、「世田谷区に空家等966棟」についての議論がもっと深まることこそが重要なのである。