毎日新聞が「ファクトチェック」と称して、櫻井よしこ氏の発言を誤りと断定している。これがファクトかどうかチェックしてみよう。
このネタ元はインファクトという左派系サイトだと思われるが、毎日新聞はそれを(情報源を明示しないで)鵜呑みにし、「東大などの国立大大学院で防衛大や自衛官出身者が学んだ例は複数確認された」から「桜井氏の発言が誤りである」と断定している。
まずこの推論は論理的に誤りである。櫻井氏は大学(あるいは大学院)が自衛官(あるいは防衛大卒業生)の入学拒否が過去に存在したといっているので、現在の「複数の事例」を確認しただけではこれを否定できない。「猫がネズミを捕った」という命題を「ネズミを捕らない猫もいる」という事例で否定できないのと同じだ。
これを否定するには、毎日新聞は入学拒否がまったく存在しなかったことを証明しなければならないが、それは不可能である。入学拒否の事実が複数確認できるからだ。たとえば『京都大学百年史』はこう書いている。
一九六四年、大学院工学研究科に二十数名の現職自衛官が入学したことが明らかになると、これを軍事研究への協力であるとして学生の反対運動がなされ、一九六七年には全学ストライキや奥田総長との「団交」に発展した。結局、自衛官入学に関して「各学部においては、慎重に考慮する必要がある」との総長見解が部局長会議で了承され、事実上、自衛官入学拒否の方針が確認されることとなった。
1968年には東京都立大学が3人の自衛官の受験を拒否した。法務省人権擁護局は都立大に受験を認めるよう人権勧告したが、都立大は「大学の自治の侵害だ」という声明を出してこれを拒否した。この他にも九州大学で自衛官の入学を拒否したことなど、入学拒否の事例はネット検索しただけでたくさん出てくる。
要するに入学拒否の事実は存在するのだ。これは人権擁護局も勧告した通り、憲法に定める学問の自由の侵害だが、名古屋大学は今もそういう方針を掲げている。1987年に制定された名古屋大学平和憲章は、次のように宣言する。
われわれは、いかなる理由であれ、戦争を目的とする学問研究と教育には従わない。そのために、国の内外を間わず、軍関係機関およびこれら機関に所属する者との共同研究をおこなわず、これら機関からの研究資金を受け入れない。また軍関係機関に所属する者の教育はおこなわない。
これは自衛官の入学を認めないという意味で、現実にそういう差別が行われた。これについて2014年に三宅博議員(維新)が国会で質問したのに対して、下村文科相は「名古屋大学は平和憲章に拘束されない」と答弁し、名大もそれを確認した。
これによって自衛官の入学拒否は憲法違反の人権侵害だという法解釈が定着し、今は少なくとも自衛官であることを明示的に理由にした入学拒否はないが、それは過去になかったことを意味しない。したがって櫻井氏の発言はファクトであり、毎日新聞のファクトチェックは誤報である。毎日は記事を訂正して櫻井氏に謝罪すべきだ。
追記:ツイッターで教えてもらったが、名古屋大学は2014年に三宅議員の指摘に対して「入試において自衛官その他の職業により受験資格を制限することは、教育の機会均等を定めた憲法及び教育基本法の趣旨からみて許されない」と、入学差別を事実上認めて公式に撤回した。