まだまだ終わっていない2020米国選挙

高橋 克己

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11月3日(現地時間)に投票が締め切られた今回の米国選挙は、大統領選びだけでなく上院の改選35議席(非改選は65議席)と下院435議席をも決める選挙だった。そして1週間以上が経った11日になっても大統領のみならず上院と下院の議席も未だ確定していない。

ところがバイデン候補は現地時間7日、当確報道が出たのを機に勝利宣言を行った。まさに異例というべきか。なぜならトランプは敗北を認めておらず、法廷での決着に移行する旨を述べているからだ。法廷闘争となったブッシュJr.の時、ゴアの敗北宣言は37日後だった。

トランプの4日深夜の勝利宣言めいた会見が非難された。が、これはその前にバイデンが、我々は勝利に向かっている旨を述べたことへの対抗だ。結果が出るまで静かに待つことや、相手の敗北受入れを待って勝利宣言するという慣例を破っているのは、むしろバイデンと言えまいか。

だが、これでは各国首脳もバイデンに祝意を表さざるを得ない。菅首相のそれが個人のツイートだったのは「万が一」へのアリバイ作りか。他方、中露やブラジルなどが動かないのは興味深い。筆者は、このバイデンの既成事実を積み上げるやり口に、つい共産中国を連想してしまう。

「万が一」というのはトランプの逆転当選だ。ネットでは投票や開票に関する玉石混交の不正情報が数多く飛び交っている。が、トランプ陣営が設けた告げ口窓口にフェイク情報が殺到したとの報道には失笑した。立憲民主党が天下に恥を晒した政策の公募を連想したからだ。

当選厳しくてもトランプが法廷闘争すべき理由

実は筆者はトランプの法廷闘争宣言を当然のことと大いに支持している。共和党長老のマコーネル上院院内総務も、他の多くの共和党議員と同様にバイデンを大統領選挙の勝者としてまだ公に認めておらず、選挙結果に挑戦するトランプの努力を支持すると述べる(参照:the hill.com)。

トランプと距離を置くとはいえ、共和党重鎮のロムニー上院議員ですら、郵便投票の無謬性への疑問を投げかけ、トランプが容易く敗北を受け入れることを期待すべきでないと述べる。ポンペオ国務長官が全ての「合法な」票が集計され次第、「トランプ政権2期目」が発足するとしたのも宜なるかな(参照:ロイター)。

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とはいえ筆者は、目下いくつかの激戦州で行われている再集計の結果トランプが逆転するとか、また法廷に持ち込まれた結果トランプが勝つとかを信じている訳ではない。郵便投票などの投票時や開票時の不正がなかったかが明らかにされなければ、米国が信頼に足る国でなくなると思うからだ。

トランプも法廷闘争は共和党のためでも民主党のためでもなく米国のためだという。7143万票へのけじめも必要だ。これは決してトランプの負け惜しみではない。6月から郵便投票への懸念を表明し、9月23日の会見では「(結果は)連邦最高裁に持ち込まれることになるだろう」と述べていた(参照:日経電子版)。

過去の郵便投票の不正が極めて少ないとトランプを難じる識者も多い(参照:BBC)。だが、16年の郵便投票の割合は20.9%(29百万票弱)だったのに比べ、今回は約65百万票と倍増した(参照:日経読売)。総得票数はバイデンが7633万票、トランプも前回を845万票も上回る。一方、激戦州5~6州の票差は10数万票で全得票数の0.1%に過ぎず、不正が結果に影響を与え易い。

中でもペンシルベニアの郵便投票用紙申請数が16年の23.4倍の252万件、ウィスコンシンが同7.4倍の132万件、ジョージアが同6.4倍の155万件、ノースカロライナが同5.3倍の127万件と、いずれも激戦が予想された各州が全米平均を大きく上回り、集計の遅延や不正の疑念を助長した。

下院の決選投票へ !? トランプが粘った展開を予想

裁判所がトランプ陣営の主張を受け入れるか、あるいは法廷でどのような判断が出るかなどは全く判らない。そこで6日の産経記事を参考に、トランプが負けを受け入れない前提で、タイムリミットと思われる来年1月20日の大統領就任式までの予定に沿い、起こりうる展開を考えてみたい。

ホワイトハウス公式FB動画より

順当なら12月8日に選挙人が決まり、14日に投票、1月6日に開票の運びだった。が、裁判となって12月14日の投票が出来なければこの日程が崩れる。その場合、合衆国憲法修正12条の規定に基づいて来年1月3日招集の議会で、下院が大統領を、上院が副大統領を選ぶ。

この時の下院の投票は50州に1票ずつ与えられるが、その1票は各州の多数党が得る。そこで焦点になる今回の下院の議席だが、選挙前の議席数は民主党232、共和党197、欠員6だった。が、11日時点の獲得議席数は全435議席中、民主党218、共和党201で、共和党が伸ばしている(参照:日経電子版)。

筆者がFOXニュースのサイトから、11日時点での州毎の多数党を拾ったところ、共和党26州、民主党20州、同数4州で、共和党が6州多かった。議席数で多い民主党が劣勢なのは、カリフォルニア州とニューヨーク州でそれぞれ37と13も共和党議席を上回るという偏りのせいだ。

副大統領を選ぶことになっている上院は、目下共和党20(非改選29)の計49議席、民主党13(非改選35)の計48議席、無所属1(サンダースは無所属だが民主党に集計)と接戦だ。残るジョージア州の2議席はいずれも僅差ゆえ1月に決選投票になったが、共に共和党優勢だ。

こうして見ると、今回の米国選挙はまだ終わっていない、という気がして来るではないか。裁判所がトランプ陣営の申し立てを受け入れるか否かが最大の焦点だが、裁判で負けてもトランプが負けを認めなければ下院の決選投票になるのだろうか。トランプならやりそうだし、筆者は支持する。

トランプは2日に署名した愛国的教育に戻す「1776委員会」設立の大統領令に続き、7日にも20世紀に共産主義によって犠牲者となった1億人を追悼する記念日に寄せたメッセージで、共産主義は死をもたらすイデオロギーだとして批判するなど、今や保守の盟主の体だ。

この4年間でトランプがここまで追い詰めた共産中国が、再び野に放たれることの脅威を国際社会が認識するなら、ここはとことんトランプを応援すべきではなかろうか。