日本企業のESG-なぜGはE・Sと並んでいるのか?

さて、先週月曜日に続いてESG経営に関するお話です。ESGへの取り組みは本当に企業価値向上につながるのか?等、世界的にも議論の対象になっているESG投資ではありますが、日本では投資総額が急増していることは間違いありません。そこで、賛否両論はあるものの、第三者機関によるESG評価基準にも関心が寄せられるようになりました。

(写真AC:編集部)

ただ、私はずいぶん前から「なぜ、環境、社会(人権)と並んでガバナンスが評価対象となるのか」ということについては素朴な疑問を持っておりました。ただ、最近は国内外の機関投資家の方々と意見交換を行う中で、「なるほど」と思うところがありました。

そこで「環境」「社会」とならんで、なぜ「ガバナンス」が評価対象とされているのか、という点について私見を述べておきます。

「ガバナンス」への評価といえば、取締役会の実効性評価、つまり多様性だったり、モニタリングモデルだったり、社外役員の数だったりが評価の対象になることが想定されます。ただ、非財務情報であったとしても、環境関連財務情報であったとしても、「ガバナンス」自体が独立して評価される、ということではないように思います。

地球環境の変動や世界的な人権・社会問題に企業がどのような影響を及ぼすのか(リスクと機会を把握することが前提ですが)、各企業はその実体面について定性的もしくは定量的なコミットメントを行う必要がありますが、では、本当に実行できるのかどうか。その実行可能性は各企業の実施プロセスが明確にならないと判断できないわけで、このプロセスを説明する基準が「ガバナンス」だと理解する必要があるのではないでしょうか。

たとえば英国のESG評価機関が採用している「ガバナンス」の評価基準は、単なる「企業統治システム」だけでなく、リスクマネジメント能力、課税コンプライアンス、腐敗防止(品質偽装や外国公務員贈賄)、競争コンプライアンス(カルテル防止や優越的地位の濫用防止)といった評価項目が含まれており、つまり社会(人権)への取り組みを進めるための経営陣のコンプライアンス意識の高さがあって、はじめて「E」への配慮に信用性が付与されるものと理解されます。

また、米国のパリ協定復帰で注目される「TCFG」ですが、企業が気候変動に向き合う姿勢(脱炭素化に伴うリスクと機会に関する課題、及びその課題解決策の実施手法)を財務数値で説明するとしても、課題解決のプロセスを示すモノサシのひとつが「ガバナンス」です。

経営陣が開示している将来目標を達成するための途中経過を理解できるだけの構成員がそろっているか(環境経営に関する知見の保有)、もし不十分であるならば、将来目標を達成しうる取締役会を構成できるか(監査と監督)、といったところがガバナンスの評価項目になるものと思われます。

そして、ガバナンスの開示にあたって大切なことは、そのようなプロセス(ガバナンス)の実効性が高いことを、エピソード等でストーリーとして対外的に示すことだと考えます。おそらくESG経営への取り組みにおいて、もっとも難しいのは、この点ではないかと。

こうやって私見を書いてみますと、やはりESGに熱心な会社とそうでない会社とでは、開示情報に大きな差が生じることになるように思います。もしESGに前向きに取り組むのであれば、上記のような点に配慮することが求められるのではないでしょうか。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年11月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。