オーストリア、コロナ禍でスーパーと花屋の領土争い

オーストリアでは17日午前零時(日本時間同日午前8時)を期して、24時間の外出制限など第2ロックダウン(都市封鎖)の追加措置が施行された。期間は一応、来月6日まで。今年3月の第1次ロックダウンの時は外出制限が実施され、ほぼ全ての店舗が閉鎖された途端、街から市民の姿が消えた。車の騒音は少なくなった。「これがロックダウンだな」と感じたものだ。今回も多分、同じだろうと考えていたが、午前中は市内には多くの市民の姿が見られた。午後に入ると、人の姿がようやくまばらとなっていった。いよいよ第2ロックダウンの始まりだ。

▲オーストリア最大スーパー(Spar、Sparの公式サイトから)

ところで、新型コロナウイルスの新規感染者が急増している時、外出せざるを得ない人々がいる。コロナ規制では、人が外出できるのは、①仕事に行くため、②日常必需品を購入するため、③自身の安全確保のため、④他者の医療看護ケアのため、⑤自身の精神的コンロトールや自己管理の為の5点だ。各項目の定義が十分に明確でないため、様々な誤解や不祥事が生じやすいが、通常、①、②,⑤が最も多いだろう。

当方は毎朝5時過ぎに新聞を取りに市電の停留所まで行くが、17日早朝もいつものように仕事に出かける労働者の姿が見られた。彼らはホーム・オフィスが出来ない職種で働く人々がほとんどだ。最近はホーム・オフィスを嫌う会社もあって、会社に通勤するサラリーマンもいる。早朝、ランニングしている青年に出くわす。感染の恐れがない時間帯にジョギングや散歩をするわけだ。

第1次ロックダウンでは見られなかった現象が報じられてきた。食料品や必需品やおもちゃ、花束まで売っているスーパーと、閉鎖を強いられている業者間で不協和音が出ているのだ。

具体的に説明しよう。スーパー(食料品取引業)は野菜、果物、肉類、ミルク、穀物、チェコレートなどお菓子類などを陳列して売っている。マスクを着けたお客が必要な商品を買う。ところが、スパーでも大型店になると、日常消費財ばかりかおもちゃや花も売っている。一方、おもちゃ屋さん、花屋さんはコロナの規制期間、閉店しなければならない。この規則を破った場合、最大3600ユーロの罰金に処される。

そこで問題が生じる。例えば、オーストリア最大のスーパー、SparやHoferでは野菜や果物の横に花を並べて売っている。それだけではない。クリスマスのプレゼント用のおもちゃまで並べているから、当然、花屋さんやおもちゃ屋さんの業者から不満と苦情が飛び出す。

ちなみに、花屋さんの場合、前年同期の売上額の60%を国から後日補填される。家具店の場合は20%だ。家具は腐らないが、花は直ぐに売らないと商品価値を失うから、閉鎖期間の補償率は高い、というわけだ。一方、コロナ禍の規制期間も開店できるスーパーは政府からの補償金はない。

第1次ロックダウンの時、SparやHoferは花やおもちゃの棚にカバーをかけて売らないように対応していたが、クリスマス・シーズンを迎え、稼ぎ時だ。そんな悠長なことをいっておれない。ただし、ドイツのREWグループのメルクア、ビラ、ペニーでは今回もおもちゃなどは店に並べないなど、スーパー業者の間で対応が異なっている。シュラムベック経済相はスーパー業界に対し、フェアなビジネスを呼び掛けている。

第2次ロックダウンで店舗が開かれる業種の中に、理解に苦しむが、武器販売店と旅行会社が入っていた。狩猟文化の西欧社会では武器は狩りを意味し、日常必需品のカテゴリーというわけだ。商工会議所の説明では、狩猟は職業教育であり、武器の販売は安全保護のためだという。一方、旅行会社の場合、オープンしてもこの規制期間、海外旅行を予約するために店に来る人は多くはいない。海外渡航警告も出ている時だ。旅行会社のオープンには実質的な意味が乏しい。

ところで、人にとって生きていく上で最もエッセンシャル(絶対不可欠)な店はどこだろうか。英国でそのような意識調査が行われたという。ある人は裸になってブティックに歩いてきた。自分にとってドレスやアクセサリーこそ食料品以上にエッセンシャルだから、コロナ禍のために閉鎖するとは何事か、といったデモンストレーションだった。

英国人やアイルランド人は仕事を終え、自宅に帰る前、行きつけのパブでビールなどを飲むことが多い。だから、大多数の国民にとってパブの閉鎖は受け入れることができない。パブは大多数のアイルランド人にとってエッセンシャルな店だからだ(「花を買った婦人と白熊の赤ちゃん」2020年3月19日参考)。

パンとミルクを買うために一人の婦人がスーパーに出かけた。そしてパンとミルクのほか、食卓を飾るために一輪の花を買った。もちろん、同じ店でだ。イエスの言葉を引用しなくても、人はパンのみに生きているのではなく、神の創造の美でもある花を称えながら生きている存在だから、婦人は何も過ちを犯していないが、コロナ禍ではスーパーでパンと花を同時に買えば、問題が出てくるというわけだ。

もちろん、新型コロナウイルスの感染前まではスーパーでパンと花を同時に買っても花屋さんから苦情が出ることはなかった。それがコロナ時代に入ると途端に、花屋さんは「我々の領土に侵入することは許さない」と喧嘩腰だ。

covid-19はスーパー業界と花屋さんの口論を聞きながら、笑いが止まらないだろう。それにしても、至る所で対立と混乱を生み出すcovid-19は、人間の弱さがどこにあるかを誰よりも知っている悪魔のような存在だ(「ウイルスは『社会の分裂』を生み出す」2020年10月28参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。